1/28~29 長野県徳沢
2泊3日の予定で横尾から蝶ヶ岳を目指そうと入山しましたが、雪深く横尾まで辿り着けずに徳沢で幕営をし下山。束の間の陽気から厳冬期へと戻ろうとする2日間でした。
1月28日
冬の上高地は3年振り3度目。相性が良いのかいつも晴天に恵まれています。朝の気温は-4℃。この時期の上高地としては、春先の陽気と言っても過言ではないでしょう。昨年開通した上高地トンネルのお陰で125mほど短縮。距離よりも雪崩ゾーンを回避できるのが助かります。吊尾根が見えたところで、今回のニューアイテム「ソリ」の登場。ここから目的地の横尾までは標高差100m、約15kmの水平移動なので、30kg超えザックの運搬手段として取り入れました。
大正池ホテルから先の車道は一人分の踏み跡のみ。トレースとして利用するには寂し過ぎました。帝国ホテル前でスノーシューを履き、誰も居ないバスターミナル前を横切って河童橋へ到着。小梨平を少し入ると踏み跡はなくなり、一瞬、心が折れそうになりますが、青空に勇気を与えてもらい、真綿の世界へ踏み込みました。
真っ白な林床に落とす樹々の影。青空を衝く明神岳。聞こえてくるのは自分たちの息遣いと雪を踏む音。しばらく歩くと明神からの登山者。お互いのトレースをお礼と共に交換しました。そして、明神。再び、トレースはなくなり、これはゴール横尾まで続くことを意味します。ここからも明るい冬の林から覗く明神岳や前穂高岳の白き岩峰。梓川沿いを染めるケショウヤナギの美しさに助けられ、一歩一歩トレースをつなげます。深い所ではスノーシューが膝下まで沈む時もあり、夏道であれば1時間もかからない明神・徳沢間も今日は倍近くかかります。この調子で進めば横尾到着は4時近くになるため、徳沢泊に変更すると共に、蝶ヶ岳登山は断念しました。
緑がまぶしい徳沢のテント場は立ち入るのが申し訳ないほどの清らかさ。6月、ニリンソウの花が白く染める森の奥からは童話の主人公たちの囁きが聞こえてきそうです。前穂北尾根が眺められる場所で幕営。荷物を整理した後は、水作りタイム。45リットルの袋に詰めた雪からは6リットルの水が出来ました。
夕食後、ようやく一息ついて天気をチェックすると、30日は雨混じりの雪となり、午後からは急速に気温低下の予報。冬の雨は致命傷になりかねないので、即、29日下山を決定。無理をせずに徳沢泊としたことが功を奏しました。
全てはここから始まります
朝靄の立つ大正池
車道から木々の合間に焼岳
バスターミナルの駐車場も一面銀世界
力強い梓川の流れ
吊尾根と対峙する焼岳は男前
ソリのトレースは3本ライン
明神岳は穂高岳にない孤高を感じます
ここから先は 私達の道
冬の風物詩 ケショウヤナギの並木が雪に映える
また撮ってしまう(笑) エッジの曲線美
さて 貴方ならどう引きますか?
明神・徳沢の中間点「古池」
河原沿いに出ると 徳沢まであと僅か
貸切の徳沢テントサイト
トイレまでのトレースから前穂高岳
今日のトレースは 一歩の重みが違いました
斜光に照らされる 神々の頂
夜の帳が 徳沢に訪れる
星の明かりが見守る マイハウス
1月30日
静かな一夜が明け、テントから顔を覗かせると、そこだけ時間が止まったような前穂高北尾根。やがて東の空が赤く染まり、その光は岩峰に命を灯します。その最も高い頂には一筋の雪煙。その稜線の世界を思えば、まさしくここは「徳沢天国」。朝食の用意をしていると一人の登山者がテントの前を通過していきました。長塀山の方に踏み跡は続いていましたので、蝶ヶ岳を目指されたのだと思います。無事下山を願う限りです。
やがて朝陽は上高地側から射し込んできます。日陰にあったマイハウスにも潮が満ちていく感じで陽が当たり始めました。「生きていること」を感じる冬の朝です。
暖かい陽射しを受けながら片付けをします。当初の目的は達せませんが、充足感に溢れた撤収です。梓川の畔に出て大天井岳方面を見るとレンズ雲。荒天の兆しにこの判断は正解だったと確信しました。昨日、我々が引いたトレースは森の中に綺麗な道筋を引いていました。そして、同じ行程とは思えないほど、快適に進むことができます。以前にも書いたことがありますが、雪道のトレースは高速道路。それを最初に引いた方の努力と感謝の気持ちは忘れないで欲しいと思います。
夏道と同じコースタイムで明神に到着。徳沢を出発した際には青空だった空もその半分を雲が覆い始めてきました。そして河童橋に着く頃には、山稜と空が一体化。予報通りの高曇りとなっていました。
河童橋の畔では10数人のスノーハイカー達。それでも夏の喧騒が嘘のような静けさです。温かい紅茶を飲み、河童橋を出発。車道を歩いていくと、そこにも一本のライン。我々が引いた道だと思うと何か嬉しくなってきます。
昨日とは打って変わった大正池と穂高連峰。どちらの景色も厳冬期であり、優劣をつけることは出来ません。明日はきっと更に厳しい表情を見せるのだろうと思いながら、現実への境界線、釜トンネルへ入りました。
下山後は、春の香りを気持ちに込めていつもの・・・(笑)
贅沢な 朝のひととき
黄金色に目覚める峰々
雪煙は…神の息吹なのか
地上の煙は…生活の匂い(笑)
目に痛いほどの 銀世界
小屋へと続く 新しい踏み跡
徳沢テントサイトを二分する踏み跡
大天井岳上空にレンズ雲…
白一面の梓川畔と霞沢岳
大きく両手を広げている明神岳から前穂北尾根
一往復するだけで 見事なトレースが出来上がり
兎のトレースとの交差点
明神岳の背後に迫る白い雲
紅一点.‥ひとりぼっちの河童橋
眺めるは 男前の焼岳
振り返れば 色をなくした 上高地
大正池の畔から見る焼岳が大好き
まもなく吊尾根もその姿を隠すことでしょう
「穂高よ さらば~」と口ずさみます
無事の下山を祝って 安曇野にて…