Satの 山と一期一会

春夏秋冬。山との出逢いはいつも一度限り。

2019年 雪の上高地で幕開け…

1月5~6日 長野県上高地(明神)
2年前の冬、トレースを交換した人から聞いた宿。今冬こそはと思っていたところ、機会に恵まれて、仕事初めを済ませてからの出発。

1月5日
冬の上高地。釜トンネルから先は閉鎖され、冬山と同じ心構えで入山しなければなりません。その出発点、中の湯に長野県側から向かう手段は大きく3つ。沢渡第2駐車場からタクシー(要予約)、高山行の路線バス、中の湯温泉や坂巻温泉から送迎もしくは徒歩。
今回は時間的な余裕から「さわんど」8時55分発に乗車して「中の湯」に向かいます。
今日の予報は終日「雪」。今夜以降、明日の朝に期待して、沢渡を後にしました。
通行止めのゲート脇を通り、玄関口「釜トンネル」へ。この入口に立つと、一種独特の緊張感に包まれます。2年前は「上高地トンネル」が開通し、雪崩区間の回避と時間短縮が図れました。そして今回は、両トンネル内に照明が点くようになりました。以前は、真っ暗で急な(勾配 11%)トンネルを約1.3km歩き、出口の先にある真っ白な光景が段々と近付いた後、焼岳の山頂に出迎えてもらい「あぁ、冬の上高地へやってきた~」と感じる。あるアニメ映画のように、別世界へ続く真っ暗なトンネル歩きが僕は好きでした。
上高地トンネルを抜けても雪の止む気配はありません。ただ風はなく、気温も氷点下に届くかどうかの暖かさ(笑)で、全く気になりません。4回目となる冬の上高地。雪の降る日は初めてでしたが、今回の目的は宿を楽しむことであり、大正池や田代湿原、河童橋からの穂高連峰等、素晴らしい景色は二の次です。そのため、大正池ホテルから始まる遊歩道は利用せず、そのまま車道で河童橋へ向かいました。
前回、30kgのザックをソリで引っ張ったトレースのない車道は、見事に除雪され、夏道同様に歩けます。(但し、冬は日々状況が変化します)さすがにバスターミナルから先は除雪されていませんが、正月休みをこの山域で過ごした大勢の方のトレースが今も残っていました。
夏道と同じ時間で明神に到着。ここから先、徳沢方面にもしっかりとしたトレースが引かれており、同じ「雪の上高地」であっても、トレースの有無で全く別次元になります。後で宿の方に聞いた話ですが、河童橋から明神まで6時間もかかったことがあるそうです。
宿に着き、薪ストーブを囲みながら暖をとる間に、切り盛りされているご夫婦と話が弾みます。初対面なのに全くそれを感じさせないお二方の気遣いは、久しぶりに会う山友宅を訪れた印象です。
夕方、ランプに火が灯され、暖かみのある炎が揺れ動きます。窓に映る灯火は、異空間へ続く道標のように、暗闇へと消えていきます。電気も水道も、当然、ガスもない宿にて、自分達が出来る可能な限りのおもてなしをされるご夫婦に、共感せずにはおれません。決して、手の込んだ料理は提供出来ないと断りつつ、一品一品に心のこもった夕食は感謝と感動です。
夕食後も楽しい話は続き、途中から最小限の灯りで過ごした時間が深く刻み込まれました。やがて、降り続いた雪も止み、東の空には星が瞬き始め、いつものように星空撮影に出かけます。月のない夜にも関わらず、白く浮かび上がる明神岳梓川の音、森を抜ける風の匂いと冷たさ、猿の鳴き声…上高地の夜を五感と共に過ごします。宿に戻ると、まだランプの灯りが窓から漏れ、ぼんやりとご夫婦の姿が映し出されます。唯一瞬くこの灯りは、お二人の愛情の灯火ではないでしょうか。

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この玄関口に立てる喜び…釜トンネル
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上高地ワールドまで あともう少し…
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冬の上高地…ここから大正池までがアプローチ
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雪降る日も美しい…大正池
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バスではわかならい 高木の道
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時折 雪が踊るなか バスターミナルでランチ
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霞んだ岳沢も 冬の一枚
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冬空に突如現れる ブルーアイ
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この静寂が素晴らしい...河童橋
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冬の紅葉 ケショウヤナギは 艶っぽい
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今年は ハイウェイ気分の トレースです
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前回は気付きませんでした 明神岳氷瀑
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ここでは 冬の紅白を楽しめます
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陽が射せば 自然と足が 止まります
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地吹雪…これも 冬の風物詩
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こんな日は 青空よりも表情が豊かになります
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この橋を渡るのは 11年振り
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昼間も 輝いて見えました
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幸せをもらいました
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やっと 冬に来れました…明神池
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この炎は 追憶の灯り
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LEDに この雰囲気は出せないでしょう…
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星に照らされた白き峰…明神岳
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冬空の代名詞…オリオン座とシリウス
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この灯りは 今の我々と同期している

1月6日
蝶ヶ岳方面の空が、薄桃色の刷毛で刷いたような空になってきた頃、天に突き刺す白い岩峰は静かにその時を待っていました。やがて、薄化粧を始めた頂は、刻一刻と表情を変化させ、昨晩のランプの炎にも負けないオレンジ色に染まります。
吊り橋から初めて明神岳を見上げたのは高2の夏。槍、穂高のように一般ルートを持たないこの頂は、正に崇拝の対象でした。あれから40年以上が経過しましたが、未だ、その気持ちに変化はありません。こうして山を続けてきた現在を、僕は幸せに思います。
当たり前が当たり前でない冬の上高地。理解出来そうで理解していない冬の上高地
朝食はここでついた餅を使ったお雑煮。今年は新年早々、八ヶ岳山麓に居たため、食べる機会を逸していたお雑煮。丁寧に出汁をとり、餅が焼き上がった最高の状態で私達に提供をされているんだと昨夜の会話から想像できます。これからすまし汁のお雑煮を見ると、ご夫婦の笑顔が思い浮かぶかもしれません。…ちなみに、僕が作るお雑煮は、白味噌です。
朝の散歩に出かけると、宿の周囲では猿たちが朝食中でした。厳しい自然環境の中でもその数は増える猿たち。笹の葉を頬張る猿やじっと何かを見つめて物思う猿も居ます。
「猿たちも大変なんだよねぇ…」ここでも昨夜の会話が思い出されます。
朝、雲ひとつなかった空は次第に白々とし始め、薄曇りの様子を見せてきます。今朝は部分日食であったため、撮影できるかなと思いましたが、残念ながら目視だけに留まりました。
散歩から戻ると、予定の出発時刻を1時間超えています。本当に名残り惜しい世界でしたが、去らねば次はありません。ニリンソウが咲く頃、併設するカフェでの再会を約束し、今日で一旦宿を離れるため、慌ただしくされているご夫婦にお願いし、明神岳を背に記念撮影。そして、最後にお二人並んで見送ってくださる姿を写真に納めました。別れ際、奥様が掛けた「行ってらっしゃい」の言葉。以前、訪ねた「魂の宿る小屋」とオーバーラップします。
河童橋まで戻り、昨日は姿を隠していた上高地の風景と再会。今は通過点となってしまいましたが、僕にとって上高地は「山の聖地」です。その上高地も時代の変化と共に変わってきましたし、今後も変わっていくでしょう。でも、僕が生きている間は、ここから見る景色は同じであってもらいたいと願います。
大正池を過ぎて吊尾根が見えなくなる上り坂。そして、帰りは見送ってくれる釜トンネル入口の焼岳。コツンコツンと乾いた靴音をトンネル内に響かせながら、元の世界へ戻る2人です。
下山後は、一夜明けてからのいつもの…(笑)

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明神岳が いつも見守る 宿の鼓動
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期待が高まる 夜明け前
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岩峰に朝が 近付いていきます
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おはようございます
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何度見ても 冬の朝は 一期一会
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孤高の名峰…明神岳
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美しさと厳しさは 表裏一体
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次第に 朝が広がっていきました
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昨夜のランプを彷彿させます
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空は 足元にも 広がります
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水面を 朝が 通り過ぎていきました
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池の森越しに…明神岳
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この一杯に賭ける 御夫婦の心
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朝食が あるとき…
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朝食が ないとき…
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晴れれば それはそれで 美しい
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この景色は 初めてかも…霞沢岳
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この足跡が 一番のお気に入り
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トレースが残せなかったので 代わりに…^^;
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昨日はお世話になりました…しばし 御役目御免
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冬の花火にも見える ケショウヤナギたち
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今日も口ずさむのは 「穂高よ さらば♪」(^^)
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次は 車窓から再会です
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翌日 安曇野から見る 常念岳と横通岳
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寒い日を ほっこりさせるのは いつもの…(笑)