Satの 山と一期一会

春夏秋冬。山との出逢いはいつも一度限り。

2020 ラスト テント ライフ

11月23~24日 奈良県弥山

11月23日
3連休の最終日。夜半の天気回復を狙って10kmにも及ぶ山道国道を駐車場に向かいます。

いろんな出来事があった2020年も残り1月余り。今年は山行の回数もぐっと減り、来月もテント泊の予定はなく、これが今年最後のテント泊山行。パッキングをしながら振り返ってみれば、8月に続く今年2回目のテント泊です。
行先は2年前に訪ねた大峰山系弥山。ここは国道の冬期規制直前・解除直後に行くことが多く、私達にとってはホーム的テント場。営業小屋もありますが、休業時に行くため、水、食料などを担ぎ上げねばならず、それ故、静かなテントライフを過ごせます。
前回はミルキーウェイの初日と青空に輝く霧氷の2日目。そして、決して忘れることの出来ない富士山の遠望。今回も予報は全く同じで、奇しくも同じ日程。違うのは、霧氷ではなく冬枯れの森。冷たい風が吹く駐車場も前回同様で、時計の針が巻き戻されたかのように、ラストテントは始まりました。
近年はライトなテント泊や山行が増えていますが、私達は昔ながらの重装備派。夕食の鍋料理に翌朝のマフィンセット、数多くのインスタント飲料とおやつ(笑)。そして、それに要する水。総重量は30㎏+カメラ一式となります。
2年前も担ぎ上げていますが、今年は山行値が低く、年齢も2つ重ねています。全く不安がない訳ではありません。ただ、熟知したルートを含め、経験で補えると思っていました。
このルートは大きく3区間に分けられます。駐車場から大峯奥駈道出合までの「尾根直登」区間。出合から聖宝ノ宿までの「稜線なだらか」区間。聖宝ノ宿跡から弥山小屋までの「つづら折り」区間。直登の疲れを稜線で癒し、最後の登りに向かう。時間的にもほぼ等分でその区切りが休憩ポイントになります。
いつもよりゆっくり登ってみても、段差の多いこの区間では息が早くなり、身体はすぐに暖まります。腿を上げた時、カタッという何かが落ちる音と共に足元を見れば、鞄から落ちたカメラが登山道を転がり始めています。慌てて後を追いかけたものの、間に合わず、谷を10数m転げ落ちてしまいました。何とか止まり、逸る気持ちで戻ろうとするところ、バディに注意を受け、慎重に下ります。奇跡的にも異常はなく、モニター部分の保護カバーが少し傷付いた程度で済みました。これまでも鞄から落ちたことはあり、今回の件で万全の対策を講じねばと肝に銘じました。
やっとの思いで出合に到着。風当りが強いここは、倒木の陰に座って風を除けます。霧氷の季節になれば、ここから目を楽しませてくれます。今日は落葉の茶色と苔の緑が美しい冬枯れの一本道。時折、稜線を雲が流れるのか、ミルキーな世界に包まれる森は、修験者が歩いた奥駈道らしく、神々に試されているように感じます。聖宝ノ宿跡で十分な休息を取り、「聖宝八丁」最後の登りにかかります。駐車場の方が話していた「霧氷があるかも」については正解だったかも知れません。ただ今は、跡形もなく消え、その滴が頭上に襲います。登る度に激しさを増し、遂には雨具を羽織らねばやり過ごせなくなりました。濡れて傾いた階段に、冷たい風が吹く展望台。正しく試練の登りが続きます。ただ小さな一歩でも続ければ目的に近付き、今年もミルキーウェイに包まれた三角屋根に出迎えられ、苔のテントサイトにザックの花を2輪咲かせました。
設営を終え、一息ついてから小屋周辺を散策。小屋前にテントはなく、冬季小屋も無人。時間的にも今夜は私達だけのようです。上空を過ぎる風の音は空気を揺らしますが、テント周辺はトウヒやシラビソに守られて無風。夕食の鍋が完成した午後6時、気温は3.8℃で思ったほど寒さは感じません。逆に、温かい鍋料理で上着を脱いだほどです。
寝る準備を整えた午後8時。空の様子を見上げてみれば、朧月と激しく流れる雲。一瞬の雲間に見える上弦の月が美しい明かりを放ち、次の出番を待っていると、まるで刷毛で掃いたかのように雲が追い払われ「東の星空」を与えてくれました。山をやっていてこの瞬間だけは、何度遭遇しても感動します。感謝です。
さて「ぼっち散歩」の始まり。上弦とは言え、月明かりに照らされた夜道に文明の灯りは不要です。風に注意をしながら国見八方覗に立ち、眼下を流れる雲と上空で輝く星を眺めれば、今自分が立つ世界は現世なのかと感じます。現実の香りが全くありません。そして、遠く山並みの向こうで生活する明かりが灯台のように自分を照らしてくれます。そんな世界を1時間ほど楽しんだ後、明日への期待を膨らませ、風の音をBGMとして眠りにつきました。


全ては この道から始まります

出合まで4合目の札…有名処「ブランコの木」

この谷をシャクナゲの向こうまで滑落

美しくもあり 厳しい 出合への道

冬枯れの道は ミルキーウェイがよく似合う

ここも 精霊の森…聖宝ノ宿跡

弥山名物 「試練の木階段」

現世と黄泉の境界線…第1展望台

最後の階段は いつも活力が湧いてきます

ミルキーウェイに 苔が光って見えます

長い道も 必ず 終わりを迎えます

前回は雪に覆われたテントサイトでした

ザックカバーが 苔と同期しています

2020 ラストテントライフの始まり…

まずは 心と身体をほっこりさせましょう (笑)

ここは 悠久の時を感じる道

足元では 花が咲いたように思えました

ミルキーな世界を楽しめるのも テントライフの良さ

この木の成長を見守りたいと思います

冬のテントライフは やっぱこれでしょう…〆はうどんでした

オリオン座が東の空に…冬の到来です

月明かり 肉眼でも この程度の視界です

テントの灯りは 我が家の温かみ

町の灯りが 星空を襲います

月夜のぼっち散歩は 時間が早回し

11月24日
目が覚めると風の音は聞こえず、時計を見れば、日が変わろうとしています。フライシートから顔を覗かせば、予想通りに満天の星空。まだ月は沈んでおらず、もうひと眠りするか思案するも、身支度を整え、地上の宇宙に躍り出ます。オリオン座は高く上がり、冬の大三角形はもちろん、遮るものがないここでは、冬のダイヤモンドも軌跡を記せます。揺らぎが少ない今夜は星の輝きが一段と美しく、アンドロメダ銀河の渦もより楕円に近く写ります。寝る前には姿を隠していたお隣の八経ヶ岳も月明かりに浮かび、右肩越しに見える小さな灯りは太平洋沿岸の町でしょう。反対側、大普賢岳ファミリーも特徴的な稜線を浮かび上がらせ、こちらも遠く町の灯りが続いているのは、伊勢湾沿岸になります。
昨夜と違い風のない静かな夜。「自分の鼓動が聞こえる」とはこのこと。暗闇、恐怖、静寂、孤立、聖地…。今のこの状況を言葉で表せば、人それぞれでしょうが、僕にとってこの場所、この時間は「ワンダーランド」。
遠く大台ヶ原ドライブウェイを走っている車のヘッドライトとブレーキランプの灯りがはっきりと見え、そんな灯りが自分と現実を繋ぎとめる証になります。
いつしか時が経ち、小屋前の鳥居をくぐる頃には、濃いオレンジ色をした上弦の月が沈もうとしていました。夕焼けは好天の兆し。今、目には映らないけど、写真では月焼けになっています。そのわずかに思える月明かりが消えるだけで、西の星空は輝きを取り戻し、天の川の畔が浮かび上がりました。そして、一筋の流星…。
「テントに戻るのが惜しい」
前回と違ってさほど寒くはないため、その思いは強くなりますが、夜明けに向けてしばしの休息をとります。
再び、フライシートから顔を覗かせば、またしてもオリオン座。太陽が昇る熊野灘を中心にオレンジの帯が地上と空を分け隔てます。その光が届かぬ天上へと続く色の階調。この景色を見ることが許されたことに感謝です。東の境界には、前回は「偶然」、今回は「必然」と思っている富士山が約290 km先に浮かんでいました。その左には、南アルプス、中央アルプス、御嶽山から始まる北アルプス。日本の屋根が一望です。刻一刻と変化する空は星の瞬きも数えるほどになり、熊野灘に浮かぶ雲の上から御来光。加速度的にその勢いは周囲の山々を照らし、新しい一日の始まりを世に知らします。陽が高くなるにつれ、影となっていた峰々は青い山脈となり、その重なりはこの地の神々を感じさせるものです。
朝食を終え、撤収準備をしていると小屋の方から人の声。本日一番乗りの登山者です。我々も人間界に戻る時間となりました。晴天の下、気持ちも軽やかに歩けるのは素敵なことです。しかし自分は、今回や前回の大山のように劇的な変化の瞬間を垣間見ることが一番。それと出逢えた今回の山行は、オーバーウェイトで苦しい初日も含めて、充実したものになります。あとは、転倒することがないよう確実な歩行を心掛けるのみです。
第2展望台で出会った方に富士山が見えることを伝えると、えらく感激されていました。やはり、どこから見ても富士山は日本を代表する山です。その後も、10数組の方とすれ違いました。テント泊らしい方も居られます。皆さん、素晴らしい一日になったことでしょう。
出合への稜線で牡鹿にコゲラ、ヤマガラなどの野鳥、そして珍しく狐を見かけました。葉を落とした冬枯れの道は動物の営みに触れる機会も増え、また、展望も良くなります。
出合からの下りは、カメラが滑落した急坂。今度は自分が落ちないよう疲れた足腰を奮い立たせ、最後の一本道まで戻りました。そこから見上げる稜線は、1時間ほど前に歩いた道なのに、遠い記憶の中にあるかのような世界。ただ、充実した気持ちとヘトヘトになった筋肉は確かに自分が歩いたことを感じさせます。国道に出る橋を渡って山行は終了。2020年テント泊は数より質の1年だったと思いたい。
下山後は地元にてほっと一息のいつもの…(笑)


大台ケ原越し 熊野灘に船の灯り

上弦の月が 静かな夜を 照らします

今回2回目のぼっち散歩…随分 暗くなりました

松阪方面の灯りでしょうか…国見八方覗

町の灯りに浮かぶ 大普賢岳

弥山小屋の右斜めには アンドロメダ銀河(トリミング処理)

魂が消えいるような 月入りでした

今宵も 満天の星が見守ります

東雲…テントライフに許された時間

今回も 290km先の霊峰に遥拝

曙に浮かぶ 中央・南アルプスと大普賢岳ファミリー

世界が戻る 御来光

新しい1日のはじまり

御嶽山 乗鞍岳に続き 槍穂高連峰 そして左端には 笠ヶ岳

谷を埋める雲海も この季節ならではの景色

少しだけ 霜に染まりました

今朝は 空と同期した マイハウス

「お腹が空いたぁ~」

至福のひと時に 乾杯

熊野灘の揺らぎが ここまで届きます

大峯奥駈道山上ヶ岳・大普賢岳・行者還岳

昨日 歩いた尾根と稜線 その奥に 大台ケ原

さぁ 下界に戻る時間です

第2展望台にて 定番の写真

忙しなく愛嬌を振りまく…ヤマガラ (トリミング処理)

国見八方覗から落ちる 「冬枯れの滝」

「また 次の機会に 会いましょう」

影が美しい 冬の稜線歩き

威風堂々 ここでは 我々がビジターです

幹を打つ音が 森に響きます…コゲラ (トリミング処理)

奥駈道から離れ 駐車場へと向かいます

同じ道だけど 目指す方向が違えば 気分も変わります

甘さが筋肉を和らげる いつもの…(笑)