5月3日 三重県天狗倉山(てんぐらさん)
新緑と常緑が混在する山間を透明度の高い清流沿いに駐車場へ向かいます。
前回ここを訪ねたのは3月中旬。早咲きの新種「クマノザクラ」が見頃を迎えていた頃でした。その桜には若葉が萌え、ウグイスの声が林の中から響き渡ります。前回は、ここ熊野古道伊勢路の中でも美しい石畳が続く馬越峠を紀北町から登り始め、峠からは尾鷲トレイルを西進し、便石山への周回ルートをとりました。その時に天狗倉山からおちょぼ岩にも立ち寄る予定でしたが、クマノザクラ見物で予定を変更したため、今回はその残りを埋めることになります。尾鷲トレイルを利用すれば、周回も可能でしたが、国道歩きを避けるため、おちょぼ岩までのピストンとしました。
天狗倉山は紀伊山地台高山脈南部に位置し、尾鷲市と紀北町にまたがる標高522mの山。便石山に登った際に訪ねた突端「象の背」と同様に、花崗斑岩が随所で露出し、眼下には尾鷲市街や熊野灘の絶景が広がり、背後に近畿の屋根とも言われる「大台ケ原山」からの台高山脈が連なります。
昨日は尾鷲市にある「県立熊野古道センター」を訪ね、伊勢路のことを更に深く知り、馬越峠に続く石畳はより一層興味深く歩くことが出来ます。先人が歩いた伊勢神宮から熊野三山への道。「伊勢に七度、熊野に三度」という言葉もあったほど、誰もが訪れたいと願う憧れの地であったそうです。今はこうして観光や登山で歩くこととは、当時の人には想像だにしなかったことでしょう。
馬越峠へは石畳だけでなく、尾鷲ヒノキやシダも美しい景観です。特に朝陽に照らされて白く光る幹が印象的で、是非ともここは午前中に訪ねてほしいと思います。
林道に合流し、巨木を過ぎれば、切り通しの向こうにぽっかりとした空間の馬越峠。当時は茶屋が建ち、峠を行き交う旅人のほっとする顔が目に浮かびます。
ここから尾鷲トレイルを東進し天狗倉山、そして、その先にある「おちょぼ岩」を目指します。
馬越峠は332m(案内板表示)、天狗倉山へは約200mの登りです。昨日、古道センターにて峠からおちょぼ岩へと続く稜線を眺めており、凡そのイメージは出来ていました。また、西側に続く便石山への階段道を経験していることも大きく、峠までの道とは打って変わった階段の急坂も呼吸と合わせて登ります。
直下で、北と南コースの分岐点。何も考えず、本能的に南コースを取りましたが、これが正解。山頂までに展望の広がる岩場が2ヶ所あり、尾鷲市街に尾鷲港、稜線を眺めた古道センター等、春の陽気に照らされた景色が広がっていました。そこから更に全身運動でひと登りすると、渕を岩に囲まれて中央に今日一番の巨岩。そこに掛けられた鉄製梯子を登れば、天狗倉山に登頂です。
象の背からも尾鷲の街並みや熊野灘を見ることが出来ましたが、東に位置する天狗倉山は更に近く、正に眼下に広がる景色です。尾鷲港から熊野灘、そして太平洋へ。広がりは世界へと通じていきます。
ここから折り返し地点「おちょぼ岩」へは約1.4km。途中、中継局の設備が建つ所が522m、天狗倉山の最高地点でした。その後、小さなアップダウンを繰り返し、494ピークを過ぎた先に「おちょぼ岩」が現れました。ここは天狗倉山より更に熊野灘寄りで、伊勢路の起点「志摩半島」を霞かに望みます。そこから出発した旅人は馬越峠を越え、西国一の難所と言われた「八鬼山越え」に挑みます。今となっては想像を絶する行程にただただ感嘆するばかりです。
展望だけでなく、その歴史を想像しながら歩くことで更に深みが増した今回の山行。名前や高さではないこうした名峰を探すのも、新しい山行のひとつかもしれない…。
下山後は、昭和と平成の香りが漂う喫茶店でいつもの…。
便石山から天狗倉山、おちょぼ岩への尾鷲トレイル
伊勢路のスケールが一目瞭然でした…県立熊野古道センターにて
木漏れ日の石畳 空気も澄んでいます
一枚一枚に 人の汗が染み込んでいるのでしょう
旅人の行き交う姿が 目に浮かびます
尾鷲ヒノキとシダを望むは 馬越坂の一里塚
馬越峠は 新旧道の交差点
まずは 尾鷲の町並を一望…南コース
昨日はあの芝生から…県立熊野古道センター
山頂には 岩の花が咲き 中央に標識のある巨岩
いつもは あの大台ケ原から眺めています
「象の背」と違い 落ち着いて楽しめました
紀伊半島の屋根…台高山脈の連なり
尾鷲港から熊野灘 そして 太平洋へ
東天狗倉山とあった 520ピーク
意外にも苦戦した 落葉広葉樹の急坂
尾鷲トレイルは よく整備されていました
あの霞んだ志摩半島から伊勢路が続く…おちょぼ岩
稜線から水平線を望むのは 熊野らしい景色
旅人もお茶をしたであろう「馬越峠」にて…よもぎのパウンドケーキ
新たな景色を楽しめる 初めての下り道
暑くなると 恋しくなる 冷たいいつもの…
(おまけ)翌朝は 鳥見散歩…お目当ての ミソサザイ
ふらっと目の前に来てくれました…ヒガラ(トリミング処理)
美しきかな 春のグラデーション…大台ケ原ドライブウェイより