2月5~6日 長野県編笠山
2月5日
青空を確信させる朝、期待を膨らませ、甲斐駒ヶ岳が望める駐車場に向かいます。
数十年前のGWに娘と登った編笠山。山頂から見た雪景色の赤岳を初め、南八の岩峰群は、まだファミリー登山の域に居た自分にとって強烈な印象を与えました。時が過ぎ、本格的に山をやり始めてからも、編笠山から見る景色は特別な思いに駆られ、訪ねる度に当時を思い出しています。
この時期の拠点、富士見高原からのルートはその山容が表すとおり、長く緩やか裾野から始まりました。
一昨日から降ったものか、登山道に入ったところから、雪が残っています。何度か林道と交差し、盃流しの沢を越えて乗った尾根が、これから始まる山行のスタート地点と呼んでよいでしょう。
テント装備のため、休憩とあわせてアイゼンを装着。ここ数年は1,900m付近の急登地点だったため、ずいぶん手前からになります。昨年の3月、氷結した登山道に苦労し、結局登り切った2,150m付近で撤退して以来の編笠山。そのつづら折り急登は、締まった雪のお陰で歩きやすいものの、去年来、慣れないザックの重さが体力を消耗させます。
前回、撤退した地点を通過したあたりから、トレースはつぼ足状態になり、一歩の負担が急上昇。また、スノーバスケットが破損するトラブルにも見舞われます。このルートは山頂直下まで樹林帯を歩くため、一気に広がる展望は高度感と解放感を味わえます。そして、目の前に現れた小さな空間。疲れていたためか、青空が見えるその空間は、森林限界が近い場所と勘違い。再び、樹林帯に入り、道は更に雪深くなります。そして一度、緩んでしまった気持ちを立て直すことは至難の業で「山頂まで1時間」の案内に心は折れ、山頂を越えた青年小屋での幕営は無理だと思いました。
バディは下山を希望。しかし、それも危険ではないかと思い、樹林帯で幕営できればと適当な場所を探しながら進みます。結果オーライのため、これが正しい判断であったかは、後々考えねばなりませんが、2,299m 森林限界手前の登山道脇にテントを張った跡があり、整地することなく幕営できました。設営中、駐車場で挨拶をした2名の方と話をしたことで、少し気分転換。ここまでの道中では「もう、次はないな」と思っており、山頂からの展望を是が非でもと、渋るバディと共にサミットプッシュ。
ここから道は更に急登となり、待ちに待った樹林帯を抜けました。このことから、山頂を除き、幕営地として最高地点だったと言えます。
岩稜帯に入れば風の洗礼を受けるのが編笠山。断続的に10m程度、時にはそれ以上の西風を全身に受けますが、経験上、登れないほどの風ではありません。背後に広がる富士山、南、中央、北アルプスの展望がこれまでの苦労を風と共に流していきます。所々、踏み跡は消え、また、心配された踏み抜きもなく山頂が少しづつ近付いてきます。そして、エビの尻尾に覆われた山頂標識と共に姿を現す南八の名峰たち。
「明けない夜がないのと同じで 終わりのない登りはない」
そう言い聞かせてきた今回の山行。ひとまず終わりが見えました。
今日の入山者は自分達を含め7名。この時間帯の山頂に立てたことは初めての経験であり、当然、自分達2人しか居ません。衰えを知らぬ風はゆっくりと景色を味わう雰囲気ではありませんが、しっかりと目に焼き付けることが出来ました。また、八ヶ岳を柱に、北は白馬から東の富士山まで続く遠景、近景はいくら見ていても飽きることはありません。しかし、陽が傾き始めた今、安全確保のためには潮時です。屏風絵の如く前方に広がる南アルプスと歩いてきた裾野。丁度、編笠山をひっくり返したかのように、釜無川を底にして、巨大なすり鉢が広がる景色。そこに飛び込むような錯覚を抱きながら樹林帯へと向かいます。全てを脳裏に刻むことは無理だとしても、この帰り道の思い出をいつまでも大切に残しておきたい。
再び樹林帯に入ると、ひとつの幕が閉じた気分。次の幕は水作りから始まる厳冬期テントライフ。編笠山の懐深くで過ごす一夜は、展望に勝るとも劣らないかけがえのない時間でした。
目指す頂きは この後 登頂まで姿を隠します
この季節 青空と風は 別物です
つづら折りが終わる2100m付近は 木漏れ日ゾーン
トレースの変化に対応しながら進みます
大きな勘違いをした 小さな世界…
つぼ足山行は 試練と我慢
13時40分 奇跡のテント場に到着
待ちに待った 南ア北部の名峰たち
森林限界に向かって…
遂に森林限界を迎え 展望が待つ岩稜帯へ…
まずは 富士山からの南アルプス…
続いて 南アルプスからの中央アルプス…
最後は 中央アルプスからの御嶽と乗鞍岳
空を眺めれば 岩と雪の世界
厳冬期の風と共に まずは偽ピーク へ
ピークに向かって 最後の登り
富士山やアルプスを眺めながら 雪山を楽しみます
このルートで最も好きな場所
次の朝には 崩落したエビの尻尾…日々 変化です
2月ともは思えない富士山ですが 日本一には変わりなし
歩いた文三郎ルートを目で追いながら…赤岳
風を除けた場所からの「阿弥陀岳」
雪面の山脈は 緩やかでした
厳冬期「編笠山」… 見るものは全て見た気持ちです
この景色と出逢えたことに感謝
パノラマの下りは 編笠山の代名詞
初めての夕暮れ迫る景色は これが見納め
水を作りながら眺める「雪行灯」
安定の美味しさに 自画自賛
風がないため 意外と寒さは感じません
2月6日
上空を過ぎて行く風の音が一晩中聞こえていたように思えます。テントを始めた頃だと気になって眠れぬ夜になったかもしれません。経験は耳栓よりも効果が高く、今ではテントを揺らすほどの風が吹いても眠れます。予報では午前中は稜線に雲がかかるとのことでしたが、昨日同様、雲ひとつない快晴になり、これでは夜明け前に展望地まで登って写真を撮れば良かったかと思いました。
今回のように山行途中で幕営地を変更したのは2度目。前回は5年前の黒戸尾根。その時も山行前日に降った雪の影響で七丈小屋へ辿り着けず、五丈小屋跡に張りました。人の気配が全くない雪のテント場。聞こえてくる風と梢のハーモニー。灯りは自分達のテントだけで真の闇が見える世界。
早朝と同様、昨夜、夜景撮影に向かえなかったのは、体力ではなく気力の問題。私達が計画する冬山テント山行は体力より気力が落ちた分、標高を下げなければなりません。昨日の山行は今後の計画に転機を促す、ひとつの分岐点になったことは間違いのないことです。
朝食をとり、撤収の準備も一段落したところで、一人、森林限界地点まで向かうことにします。最後にもう一度、眺めておきたい気持ち。気力が体力を上回った瞬間です。
空荷とは言え、冷えた身体で急登に取りかかるため、慎重に歩き始めます。昨日、午後の斜陽を受け、黄砂の影響で黄色く染まった中央アルプス方面の空。今朝は青波がどこまでも続いています。槍ヶ岳を眺めるところまで登り、手当たり次第と言っていいほどシャッターを押し、気が付けば寒さで指先に痛みを感じます。迂闊にも、行動用のウール手袋のみで撮影していたためです。もう十分であろうと思えたところで戻り支度を始め、いつものように手袋の中で指先を温めようと拳を握ったところ、左右両方の指数本、第1関節から先が固まっています。感覚はありますが、触れる感覚はありません。正直、焦りました。ずっと握って温めたいものの、樹林帯まではピッケルが必要で、握らないわけにはいきません。逸る気持ちを抑えて樹林帯に戻り、しばし立ち止まって「戻れ、戻れ」と祈りながら指先を温めます。ほどなく、感覚が戻り始め、かゆみと痛みが継続して生じます。この時点で初めて指を見ると、指先が少し赤くなっている程度で、大事には至りませんでした。時間にして10分程度ですが、冬山では「これぐらい」は禁物です。
今回の山行はトレースと言い、直下のテントサイト、そして凍傷未遂とギリギリのところで事なきを得ました。久しぶりであったことを含め、油断のあったことは否めません。また、慣れた山、快晴、最後かも知れない等、様々な要因が思考力を鈍らせています。取りあえず、安全に下山したことは、山行が成功したことの証しですが、正解だったかどうかは言い切れません。
昨日と打って変わってゆっくりとした時間を過ごし、いよいよ下山することに。本当に奇跡的なテントサイトを作って下さった方にあらためてお礼を伝え、昨日苦労した道を戻り始めます。つぼ足だったトレースは、週末登山者のお陰で一本の道になり、夏道より歩きやすくなっています。それこそあっという間に下山した感じで、急坂を下り終えた1,800m付近の明るい林で、春の陽気を思わす暖かな陽射しを受けながら、ランチタイムとしました。白樺林と雪景色。ホームや地元では味わえない雰囲気。今後、雪を踏みたくなったならば、スノーシューハイクへと移行するのも時の流れだと思います。
最後に青空の下、お椀のような頂を見せる編笠山に別れを告げ、人工的にクールダウンさせるいつもの…。
昨日とは違う 今朝の登り坂
振り返って眺める景色にも 親近感を感じます
森林限界を超えて 北岳・甲斐駒ヶ岳・仙丈ヶ岳
白き山嶺が輝きを増す 朝の展望
全ての景色は「一期一会」
このまま山頂に登ってしまいたくなります
諏訪湖越しの北アルプス 編笠山らしい景色
いつの日か 頂きに立ってみたい…北岳
登頂よりも 印象深い 冬の黒戸尾根山行…甲斐駒ヶ岳
初めての南アルプスはここから…仙丈ケ岳
雪景色はいつも遠望…木曽駒ケ岳
今年は頂きに立つのだろうか…御嶽山
永遠の憧れ…槍・穂高連峰
思い出に残る一晩を過ごさせていただきました
唯一心配だった頭上の雪…
下山中 最後の展望に感謝
つぼ足は 見事なトレースに 進化していました
1本の高速道路が 林の中を突っ切ります
忘れられない 勘違いの場所
春を思わす 日当たり良好の林
何気ない注意書きを胸に 下山します
しばらくは レンズ越しのにらめっこ
この道も これが最後の見納めでしょう…
テントを張ったのは どこだろう…
山頂から眺めても 麓から眺めても 素晴らしい山に変わりなし
いつかこの展望を 皆と揃って 眺めましょう
昭和感たっぷりのお店で いつもの…