Satの 山と一期一会

春夏秋冬。山との出逢いはいつも一度限り。

曼陀羅の夏…立山縦走

8月3~6日 富山県立山三山・奥大日岳
昨夏、計画していた立山は天候に恵まれず、山麓にて信仰や史跡、地形など立山について学びました。そのお陰で今回の山行に深みが増したと思えます。梅雨明け後も太平洋高気圧に勢いがない今夏。期待と不安が入り混じり、まずは登山口へ。

8月3日 室堂⇔浄土山~雷鳥沢野営場
観光ルートとして人気の高い立山黒部アルペンルート。自宅から室堂に入るには、富山県側の立山駅が時間的にも経済的にもお得でした。ケーブルカーと高原バスを乗り継いで向かう「室堂」の標高は2,450m。途中の弥陀ヶ原が近付くと車窓からは薬師岳に大日岳。そして、草原の池塘にワタスゲが揺れるのが見えます。やがて剱岳が見え始めると、いやが上にも気分が盛り上がります。とは言え、475mの立山駅から1時間強で約2,000mの標高を上げるため、軽く食事をしたり、荷物の準備をしたりして標高に身体を慣らします。
天気予報から一面ミルキーウェイかと思った室堂は立山連山の稜線に雲がかかっているだけで、高山植物が咲き、伸びやかに広がる草原が我々を出迎えくれました。初日は「浄土山」を周回したあと、雷鳥沢へ向かうため、サブザックに荷物を詰めてからの出発。(大型ザックは駅事務所で預かっていただけます)
石畳調の散策路から登山路へ。雪田を渡ると更に道は傾斜を増し、大きな岩が続く道を花を愛でながら登ることになります。浄土山は北峰と南峰があり、それぞれを緩やかに結ぶ稜線を歩く頃には立山にかかった雲は取れ、明日歩く別山へ続く稜線が綺麗に望めました。立山信仰では浄土山、雄山、別山立山三山と呼び、それぞれ過去、現在、未来を表わしているそうです。
国の重要文化財、日本最古の山小屋「室堂山荘」に立ち寄ってから室堂BTへ。荷物を受け取った後は、みどりが池、みくりが池、血の池、りんどう池や地獄谷と言った観光名所を巡りながら雷鳥沢野営場へ。ネットで有名な階段を下りながら「テントをどこへ張ろうか」と高見から良い物件を探します。日暮れ時、再び、稜線の雲は取れ、少し青味がかった立山連山をテントから眺めます。峰々に囲まれたテント場は涸沢や南竜ヶ馬場でも経験はありますが、こんなにも山の懐の深さを感じるテント場は初めてでした。明日、あの稜線を歩いた後、この景色はどのように変わるのだろうと思いながら、まずは、今の時間を大切にしました。


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初めての地は 立つだけで心が躍ります
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夏山と言えば この組み合わせ
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室堂BTの背景には 3日目に登る奥大日岳
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稜線直下は 火山らしい道となります
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晴天なのに お散歩中でした
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雛と高山植物…どちらがお好みですか?
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明日の山行に思いを寄せます
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過去(浄土山)から未来(別山)へ続く道
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チシマギキョウの紫に涼風を感じます
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2800m 南の展望は…雲でした
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山肌の白さが 立山の特徴でしょうか
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雷鳥沢野営場が遠くに望めます
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ブーケのような…タカネツメクサ
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クルマユリのオレンジが 緑に映えます
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チシマギキョウとは同居しないそうです…イワギキョウ
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御無沙汰でした…タカネバラ
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思わず「エーデルワ~イス」と口ずさんでしまう…ミネウスユキソウ
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室堂BTへの下山路には まだまだ雪が残っていました
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みどり池…室堂を散策するだけでも楽しいですね
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4日間お世話になります 雷鳥沢野営場
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室堂から約1時間のアクセスは とても魅力的
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カラフルなテントにも負けていません
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鰻トッピングばら寿司+ミニうどん 頂きます
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テントサイトから眺める景色…プライスレス
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立山上空を白く染める 11夜

8月4日 雄山~別山
まだ暗い3時頃から出発準備の音が聞こえてくる夏のテントサイト。フライシートから顔を覗かせる瞬間が朝の楽しみ。稜線は雲に覆われていましたが、これは想定内の景色。
雷鳥沢から一ノ越へは室堂BTを経由しないダイレクトルートで向かいます。大走りの分岐点を過ぎると、数度の徒渉があります。下山ルートとして利用する際、増水が予測される場合は室堂BT経由が安全だと思います。また、地図には(迷)マークがあるように視界が悪い場合も避けた方が安全でしょう。
道の両側に咲く高山植物を楽しみながら、静かな山行が続きます。やがて、室堂BTからのルートと合流すれば一ノ越まであと僅か。相変わらず、稜線はベールに包まれていますが、黒部側の中腹は陽が射している様子でした。目印はあるものの、踏み跡がいくつもあり、浮石や石を落とさないように注意しながらの登りが続きます。次第に空が明るくなる中、雄山神社授与所の建物が浮かび上がってきました。山頂3,003mに立つには、雄山神社峰本社の参拝料(500円)が必要になります。まだ若い神主さんから説明を受け、8時丁度に御祈祷が始まりました。山頂で聞く詔。厳かな雰囲気に包まれます。神事の最後、全員が頭を垂れてお祓いを受け終わった瞬間、一条の陽光が山頂を照らします。「立山大権現」から安全登山を約束された気分です。
雄山、大汝山、富士ノ折立。この総称が「立山」。そして、立山の最高峰3,015mは大汝山です。ここには映画「春を背負って」の舞台となった菫小屋。大汝山休憩所があります。屋根越しに剱岳の頂が見えた時、木村監督の2作品が繋がりました。
縦走ルートから外れる富士ノ折立の頂へはルーファイが必要になります。標高は2,999m。剱岳と同じですね。そこから一気に下り、真砂岳へ。時々、視界が晴れ、室堂から雷鳥沢へ続くジオラマ風景が足を止めます。残雪の白と山肌の緑。美しきかな日本の山。
頂で来た道を振り返ると、雄山神社からの連なりがテントサイトから見た景色とリンクし、目前には最後の頂、「別山」が聳え立つように迎えています。夏山の陽射しを受けながらしばし急登が続き、祠の建つ別山の稜線の向こうには今にも隠れそうな剱岳が待っていてくれました。
圧倒的な存在感。破壊的な力強さ。間近で見た剱岳の感想です。
剱御前小舎周辺は登山者で賑わっており、それは雷鳥坂を下る間も続きました。剱岳の人気の高さが窺えます。
テントに戻り、今日歩いた道を眺めると「こんなに歩いたのかなぁ」と思えるほど、楽しい稜線歩きでした。展望は限られていましたが、こうして眺めていると、その一つ一つの頂やルートが思い浮かびます。そして「立山曼荼羅」の世界観を知ってから登って良かったと思うと共に、昨年登れなかった理由がわかった気がします。

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小屋番さんも薦めるルートに期待満載
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ミネズオウがまだ咲く立山の夏
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唯一 慎重に通らねばならなかった箇所
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立山大権現に見つめられているようです
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雄山神社の神主さんが 社に向かいます
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御祈祷の後 雄山山頂から縦走路を望みます
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雲の上の神職…お祓いは感動しました
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雲が晴れると 山肌を飾る雪形が広がります
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みくりが池からりんどう池 そして 地獄谷
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大汝山へ続く稜線は 荒々しい景観
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なだらかな真砂岳の稜線と剱岳…天上界と地獄の境界線
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映画のラストシーンが思い返されました
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本当に「菫小屋」はありました
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富士ノ折立の最高点…道が読めますか?
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雛鳥の勢いがありそうな チシマギキョウ
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思いのほか遠くに見える 真砂岳からの別山
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左から「富士ノ折立」「大汝山」「雄山」
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雷鳥沢野営場から稜線を望む自分が見えそうです
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別山北峰から…剱岳 八ツ峰
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渋滞を起こした…雷鳥の砂浴び(笑)
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下山者よりも登山者が多かった雷鳥
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ミヤマキンポウゲのレモンイエローは甘酸っぱい感じ
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野菜が欲しくなる テントサイトの夜
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夕焼けと思っていいのでしょうか…?
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月夜より明るい 夏のテントサイト

8月5日 奥大日岳
遠征3日目の朝。立山の稜線が綺麗に浮かんでいます。涸沢が3000m峰の揺り籠なら、ここ雷鳥沢はグリーンスタジアム。今日の目的地「奥大日岳」のCTは2時間30分。見た目以上にそのCTは短い感じがします。雷鳥坂の分岐を過ぎ、地獄谷を俯瞰しながら登っていくと、お花畑の木道になります。自然と足取りは軽くなるも、足を止める回数は増えます。剱御前小舎へ続く稜線に出るまで30分。昨日歩いた立山を背景にテント場が小さくなってきました。
ここからしばらくは起伏の少ない稜線トラバース。そして、チングルマやハクサンイチゲ、シナノキンバイなど咲き乱れるフラワーロードとなります。続いて現れるのは、早月尾根を従えた「剱岳」。まだ陽の当たらない山頂は黒々と静まり、別山から眺めた時よりも鋭角です。立山信仰で「地獄の針の山」と畏れていた当時の人々の心境がわかります。
剱岳の反対側は天狗平の広大な緑が広がります。その中を蛇の道のように曲がりくねる高原道路。そしてその向こうには、白山、薬師岳、笠ケ岳、槍穂高連峰裏銀座等、ダイナミックな峰々から嫋やかな峰々までが一望です。
そんな時間を過ごしながら歩いていると、気がつけば眼前に頂が…。2,606m 奥大日岳の三角点に登頂です。奥大日岳の稜線を境に剱岳立山は明暗分かれる世界。ここにも立山曼荼羅の世界観がありました。
奥大日岳の最高点2,611mはルートから少し外れたところにあり、下山時に立ち寄って、ここでも剱岳と対峙。「試練と憧れ」の文字が湧く雲のように浮かんでは消えていきます。
9時前だと言うのに、早くも稜線には雲が湧き始めます。晴れてはいても、まだ夏空にはほど遠いようですね。昼前にはテント場に戻り、昼食後は、お待ちかねの源泉掛け流し温泉へ。小さな露天風呂から眺める雄大な景色。
「いい3日間だったなぁ~」と叫びたくなりました(笑)

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今日は別の角度から 雷鳥沢野営場
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そのまま待っててね…奥大日岳
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いつの日か あの尾根からこちらを眺めたい…早月尾根
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昨日までの道は 今日の思い出
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別山からの御来光は 未来から放たれた「光の道」
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地獄谷を治めるのが浄土山だろうか?
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花好きには堪らない 奥大日岳への道
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太陽を身体全体で受け止める…シナノキンバイ
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凛々しく聳える剱岳
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剱岳とは対照的な薬師岳
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広大な天狗平の大地に大日岳…遠望は白山
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圧巻の景色でした…チングルマ
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池畔を過ぎると 奥大日岳まであと僅か
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全周囲が楽しめる 奥大日岳山頂
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半端なく尖って見える 槍ヶ岳
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剱岳加藤文太郎さんと縁がありますよね
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室堂BTから始まる 大地のキレット
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秋風を思わせるような 夏の空
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足元を飾るフラワーベル…アカモノ
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至る所に ハクサンイチゲのお花畑
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男湯のみの解放感
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2軒目でGet…至福のひととき
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夕陽に染まる富士ノ折立と雄山に迫る入道雲
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最後の宵を飾っていただきました
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テントの灯りも 今夜で最後

8月6日 雷鳥沢~室堂
4日目の朝をテントサイトで迎えるのは、一昨年、荒川三山を周回して以来。その時は、毎日テント装備のザックを担いで山行を続けましたが、今回はベースキャンプ方式だったこと、テントサイトが平坦であったこと、温泉があったこと。様々な好条件と共に不安定ながらも天候に恵まれたことで、充実したテントライフと軽快な山行が出来ました。雷鳥沢野営場は「また訪ねてみたい場所」となりました。
帰途、いきなり始まる石段を辛いと思うのか、ゆっくり時間をかけて別れを惜しむと思うのかは、その人の心次第。僕はこの3日間に歩いた峰々が見送りをしてくれている。そんな心境です。
陽が射すことで、初日とはまた違う顔を魅せてくれた池巡りの後、3日振りに戻った室堂は何だか懐かしく思えました。
バスに乗車する前、最後の余韻をいつものとともに過ごし、下山後もやっぱりいつもの…(笑)

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真夜中の雨で 潤い気味の朝でした
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4日間お世話になったテントのケア中です
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名残は尽きませんが 出発です
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噂通りに登り始めは なかなかの急登です
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また 会う日まで…
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今山行初のフル装備による登り…(笑)
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地獄谷にも オアシスがあるのですね
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ここから眺める立山連山は 美しかったです
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池の色が名前の由来ですよね?…りんどう池
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名前とは違って美しい池塘の風景…血の池
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稜線の陰からそうっと見送っているようですが 半端ない存在感(笑)
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完全に観光客状態…みくりが池
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剱岳は姿を隠してしまいました
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目にやさしい 室堂BT周辺
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立山の名水で作った コーヒーゼリーパフェ
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高原バスは滝見台でスロー運転…称名滝
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全ては ここから始まりました
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そして 全てはここで終わります…(笑)