霊峰とともに 秋のテントライフ
10月15日
核心部の林道を抜け、日帰り登山者で賑わう駐車場に着きました。
四国の名峰「石鎚山」。山岳信仰の山として日本七霊山のひとつです。その石鎚山脈にある「瓶ヶ森」。山名に「森」が付くのは、この地域の特徴で、山頂が森になっている訳ではありません。稜線上には、男山(1,830m)、女山(1,897m)のピークがあり、三角点のある女山に「瓶ヶ森」の標識があります。
この山は初めて石鎚山に登った時に知り、2020年の登り初めで見た山頂部に広がる笹原と急峻な中腹部。そして、その峰に続く石鎚山脈の稜線。本州では味わえない印象的な景色。調べると、キャンプ場もあることが判り、いつの日かと思っていた6年越しの山行計画。
当初の予定は立山・雷鳥沢3泊4日。ところが、17日の天気が悪く、晴れた地域を探した結果の計画。1泊2日に減りましたが、残りは観光登山家らしい行程を組みます。
早朝、自宅を出発し、核心部の瓶ヶ森林道、通称「UFOライン」へ。この道は中盤以降、尾根沿いを走る展望道路ですが、途中、連続カーブはもちろん、基本1.5車線の道路で、すれ違い困難な箇所も多く、1時間以上も緊張が強いられます。
キャンプ場は第1、第2があり、駐車場に近いのは第2。私たちはトイレが整備され、女山に近い第1を選択。遠いと言っても、ゆっくり歩いて30分。最大高低差も70m程です。早速、駐車場で石鎚山と再会。向こう側から眺めた場所に立つことは、立体的にその山域を理解し、思い出も重なります。
左側に石鎚山、右側に氷見二千石原と呼ばれる笹原と瓶ヶ森を眺めながら進む一本道。あっという間に避難小屋へ到着し、そこから林を抜ければ、ベンチが目印のキャンプ場入口に到着。テントサイトは登山道から下がった先にあり、その途中にも1~2張のサイトが数段。今宵の宿地はテントから石鎚山を眺めることの出来る最上段としました。
午後から瓶ヶ森に向けて出発。第2キャンプ場を経由して、瓶ヶ森の語源になった「瓶壺」に立ち寄り、そこから駐車場近くまで戻ってからの登山開始。まず男山に登り、女山(瓶ヶ森)から第1キャンプ場に戻る周回ルートです。第2キャンプ場のある旧白石小屋へ続く道は腰高までの笹を掻き分けて進まねばならず、足元の注意が必要でした。午後になって気温が上がるにつれ雲も上がり、石鎚山が隠れることもありますが、夕方に雲が上がると思っているため、今はその変化を楽しむ余裕があります。水場とされている「瓶壺」には、イシヅチサンショウウオが生息しており、運良く見ることが出来ました。また、版画家の畦地梅太郎さんの作品で「石鎚山」を描いたものが数点あり、我が家にもあります。その作品を描いた場所がここ瓶ヶ森。場所の特定は困難でも、想像は景色以上に広がります。こうした登山以外の要素が詰まった「見て」「感じる」前半部分です。
昼下がりの陽射しが容赦なく照り付ける中、本格的な登りになり、岩の先端に立ち止まって一休みすれば、広大な笹原の海へ飛び込めそうな錯覚に陥ります。笹原の反対側は、核心部UFOライン。吉野川源流域から立ち上がる山腹に引かれた道路は、日本と思えない開放的な景色を見せています。
祠が祀られた男山。そこから女山へは緩やかに続く道。この稜線は見る場所によって新たな興奮を覚える世界観。遠く雲の上に顔を出す石鎚山と針葉樹林。そして一面に広がる笹原。奥深さと色調の連続変化を伴った景観は女山に登ることが勿体ないとさえ思わせます。山頂では幾分傾いた太陽が一足早く秋の夕暮れを感じさせ、眼下で踊る雲にブロッケン現象と似た光輪が映し出されていました。
テントに戻り、ベンチで夕食の準備をしていると、途中から始まったマジックアワー。これまでの山行史上稀にみる夕暮れショーの始まりは、調理をしながらの慌ただしいもので、撮影、調理、撮影、食事、撮影…。17時までに食事を済ませておくべきだったとは「後悔先に立たず」。この後、山麓の夜景が瞬くまでの時間は、生涯語れるものになりました。
木星と土星を連れた上弦の月は、林の小道に影を浮かび上がらせ、天の川の流れを止めます。静かな静かな夜。これが私たちの求めるテントライフ。
前方に今日の稜線…UFOライン
堂々たる姿の美しさ…石鎚山
午後から歩く稜線と並走して 第1キャンプ場へ
石鎚山が見守る テントサイト
キャンプ場から振り返れば 青空と瓶ヶ森
メインストリートから外れれば この通り…
これほどまでの笹原は 初めて…氷見二千石原
石鎚山の賑わいが嘘のような 静寂さ
修験の山らしく 厳しい登頂への道…子持権現山
一気に高度を上げる男山への道
特徴は花弁の紅色筋…シコクフウロ(イヨフウロ)
リンドウは あちらこちらで 咲いていました
一部を切り取って 秋を味わいます
10月の陽射しとは思えない
頭を雲の上に出し~♪ これも山の醍醐味
女山(瓶ヶ森)からの稜線とUFOライン…男山頂上
見た目以上に穏やかな稜線
振り返って 男山からの稜線と石鎚山
瓶ヶ森に続く 最後の一筋
午後の光は一期一会
石鎚山脈の稜線が彼方へと…女山頂上
二千石原を二分する 駐車場への道
雲が上がり始め マジックアワーの訪れ
時間に合わせて 主役の登場です
雲が湧いてこその 茜空
再び 顔を出した夕陽は 蜜柑色
時が見えそうな 今日の夕暮れ
静かに そして長く続く 秋の黄昏
夜の帳が マジックアワーの終焉
小屋の灯りと星明り 瓶ヶ森には マイハウス
10月16日
最近の山行で、体力以外に回復したのが「気力」。2月の編笠山山行で消えかけていた灯火に、「欲」という酸素が送り込まれ、CT40分の瓶ヶ森(女山)に向けて夜明け前山行。
5時前、テントから顔を覗かせば満天の星。予報では雲が湧き、西風が吹くとのことでしたが、雲海から昇る朝陽やモルゲンロートの石鎚山を想像し、オリオン座が照らす笹原の登山道を登り返します。
「ヘッデンの灯りだけで登るのはいつ以来だろう」と思いながら、まだ起ききれていない身体に気を配ります。中腹で星空撮影をしているグループを通り過ごしてからの登頂。慌てずに登っても20分弱で着いたのは、やはり、山に入り始めたからであり、もう少し頑張ってみようと更なる「欲」が高まります。
山麓の夜景と東の空に走る一筋の光明筋。しかしそれも束の間で、西風が雲を連れてきます。標高を下げた方が展望は良いのではと、男山を目指そうかと思いましたが、予定外の行動は事故の元と思い直し、一瞬の雲間に期待します。その後、雲のカーテンが開く度に漆黒の空が明けていく様子を感じます。ただそれを撮影しても、その空気感が出せないのは、自分の力量と諦めます。
今日の日の出時刻は6時過ぎ。この頃になると一向に雲が取れる気配はなく、西の空ではすでに太陽が昇ったことを教えてくれます。6時30分を下山時刻と決め、バディに連絡。少し下って振り返ってみると、やはりガスは稜線部のみ覆われていました。素晴らしい展望は昨日に満喫しており、これもまた新しい世界観。陽射しを受けない笹原は悠久の時を感じさせ、霧がかかった立木は晴れ間より風情があります。対面の石鎚山も暗い雲が稜線を覆い、その姿を望める雰囲気はありません。今日は冬曇りを思わせる空。モノトーンに染まった世界に紅葉した葉が映えます。
瓶ヶ森の周回ルートは、男山を先に登る左回りと女山を先にする右回りがあります。左回りは駐車場からの直登で始まり樹林帯からの男山登頂。右回りは瓶ヶ森をトラバースする道から笹原の女山直登。個人的感想としては、急坂を登りに利用するのが常套ルート。また、真正面に石鎚山を眺めながらの下りになる左回りがお薦めです。
午後遅く雨になるという予報でしたが、今にも降り出しそうな雲行きに、予定を早めて下山準備にかかります。天候次第で雰囲気の変わるテントライフ。「昨日があっての今日」です。
出発間際、細かい雨が降り始めたものの、降雨までには至らず。お世話になったキャンプ場にお礼を告げて出発。早くも周回をされてきた方やこれから瓶ヶ森に向かう方とそれぞれですが、天候に左右されることなく、この氷見二千石原の景色を満喫されていることでしょう。
岩峰「子持権現山」が間近に見えると駐車場。谷から沸き起こる雲が、修験の山らしい厳しさを醸し出します。半時間もかからずテントサイトに到着できるアクセスの良さは何度でも訪ねてみたい場所ですが、自宅からの距離を考えれば、次回の予定は立ちません。
雨の気配がなくなったため、駐車場でコーヒータイム。昨日の景色をオーバーラップしながら石鎚山を眺めていました。平日の昨日より駐車台数が少ないのは、やはり天気の影響でしょう。
この後、UFOラインの終着点「石鎚山登山口」に移動し、石鎚神社土小屋遥拝殿に参拝。そこに向かう途中で見た瓶ヶ森は、笹原の山頂部を残し、巨大なスプーンで掬い取ったような山体で「鎧を纏った女王」のように思えました。昨日、あの頂に立ち、こちらを眺めていた。ここでも思い出が重なりあって、この山域は更に近くなりました。
下山後は、眺めていた夜景の町でいつもの…。
町は眠らない…西条市・新居浜市
昨日の黄昏と この暁の空は 続いている
「春は、あけぼの…秋は、夕暮…」ですが 秋の曙も素敵です
この後 山頂は 永遠のミルキーウェイ (笑)
さて 昨日とは違う光で 戻りましょう
朝の冷え切った空気とこの景色が 身体を浄化します
振り返ってみれば 稜線を覆う ミルキーウェイ
旧ヒュッテの右上が 第1キャンプ場
今日は 石鎚山も 姿を現さないでしょう
下界は 晴れる様子です
快適な時間を過ごせた 第1キャンプ場でした
昨日を振り返りながら 駐車場まで戻ります
紅葉の見頃は 1週間先でしょうか
明日向かう 遥か彼方の 松山市内
モミ、ツガ、ササ等々の立体的な世界でした…瓶ヶ森
関西とは異なる 四国の山深さ
畦地さんの世界が 至るところにあります
遠くの石鎚山より 近くの子持権現山…(笑)
UFOラインで土小屋へ…瓶ヶ森と子持権現山
0番は 寒風山登山口…UFOライン 土小屋(石鎚スカイライン終点)
汗を流して登った昨日が 嘘のよう…男山
UFOラインから瓶ヶ森(女山)を見上げます…吉野川源流の碑
吉野川源流は 入り組んだ谷
まだまだ続く核心部…UFOライン
陽射しの秋を表現した いつもの…