Satの 山と一期一会

春夏秋冬。山との出逢いはいつも一度限り。

2021年…ラストテントライフ

12月10~11日 奈良県釈迦ヶ岳
落石が散らばる核心部の林道を抜けて登山口の駐車場に向かいます。

12月10日
2021年も残り3週間となり、今年最後のテント泊山行。関西のテント場としてはホームになった大峰山脈弥山は、今日から国道が冬季通行止めとなり、大峯奥駈道で繋がる「釈迦ヶ岳」でラストテントライフ。
釈迦ヶ岳は8年前の6月以来の2度目。但し、前回は視界と天候が悪く、今では絶対に行かない状況。山頂直下の千丈平で幕営予定を奥駈道にある深仙宿避難小屋へ急遽変更し、周囲の景色を全く見ないままの下山。と言うことで、今回の山行はある意味初めて訪ねる感覚です。
登山口へは自宅から約3時間。登山口から幕営地の千丈平へはCT約 2時間。千丈平から山頂は15分。関西ならではのテント泊山行。行程は釈迦ヶ岳から南西に延びるなだらかな笹原の尾根を進み、登山口と千丈平(1,670m)の標高差は約400m。釈迦ヶ岳(1,799.9m)に向かう最短ルートとなります。今回はレナード彗星の撮影を目的のひとつにし、夜明け前の山頂で過ごす1時間30分が正念場。
笹原の尾根に向かう支尾根から登山スタート。樹間にはこれから歩く稜線が見えていますが、釈迦ヶ岳の姿はありません。短い梯子が2ヶ所あるものの、よく整備された道は歩きやすく、気温の上がった今日は早くも汗が流れ落ちます。
稜線に乗り、まずは旭登山口分岐点を目指します。午前中は前線の影響で雲が多いとの予報でしたが、時折、陽が射す登山日和で、次々と笹原に現れる自然の曲線美を進むと、開けた先には対照的な鋭角の頂。奥駈道 35番目の靡(なびき)「大日岳」です。前回は、この頂に挑戦してみたい気持ちはありましたが、今は眺めるだけで満足です。稜線上の小高いピークに立つと、大日岳から続く稜線、すなわち熊野から吉野へと続く奥駈道が見え、こんもりと一段高くなっている「釈迦ヶ岳」とご対面です。
釈迦ヶ岳の山頂には、高さ3.6mの釈迦如来立像があり、遠く弥山からも判ります。ここは、奥駈道の中では「釈迦入滅の地」とされ「釈迦如来の住む他界」とみなされているそうです。
分岐点を過ぎたところで、鞍部に建つ「深仙宿避難小屋」と再会。続いて、次の目的地「古田の森」を過ぎれば、千丈平と釈迦ヶ岳が目の前に広がり、最後の登りに取り付きます。ここまで2名の方とすれ違っており、駐車台数から差し引けば、この先には誰も居ません。
深仙宿に向かう分岐点から登山道を外れた奥に幕営適地があります。「かしく水」と言われる水場は、更に釈迦ヶ岳へ登った右側。丁度、鹿の親子が登山道を横切って、こちらを見ていましたが、人馴れしているのか、警戒する様子もなく、ゆっくりと立ち去って行きました。
昼食をとり、休憩している間に2組の方が通り過ぎて行きました。その2組目の方が下山するのを見送り、青空が広がり始めた午後2時、私達も山頂に向かいます。日帰り山行だと正念場になる奥駈道までの登り坂。視界がぐんぐんと広がってくるのが判ります。合流点から更に笹原を登れば、偽ピーク。もう山頂はそこだと思っても、如来像が見えません。平坦になり岩が露出する木の陰に黒みがかった緑青色の「釈迦牟尼仏」の姿。まずは参拝。安全登山を祈願します。見つめるその眼差しに安堵を覚えるのは自分だけではないでしょう。
これまでは向こうに立って眺めていた弥山から始まる360度の大展望。どの方向も尾根と谷が連なる山深い景色。1300年以上の前から修験者達は何を思い、何をお祈りしてきたのでしょうか。
明日の登頂をお祈りし、山頂を後にしました。テントに戻り、くつろぎタイム。ラジオから流れてくるのは、何とFM徳島。しかも、ノイズなし…。
奈良県の日没時刻は16時46分。次第に森がオレンジ色に染まり始めます。一旦姿を隠した太陽は、山の稜線にゆっくりと身体を預け、16時53分 最後の一遍を私達に送り届けました。
明日にかけての予報は晴れマークひとつ。ところが、夕食後に空を見上げると雲が覆っています。しばらくして再び見上げると、上弦の月が照らす雲ひとつない星空。安堵するも束の間、上空を吹く風の音が聞こえ始め、それに伴って星空は消え、やがて森もミルキーウェイに包まれ始めます。きっと朝には回復しているだろうと思いつつも、一向に止まない風を聞きながら、眠りにつきました。

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自然の曲線美は 場所を選ばない
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ようやく 目にすることが出来ました…大日岳
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このようなピークを いくつも越えていきます
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ピークの数だけ 向こうの世界があります
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「笹原になったのは いつのことだろう」と 思う道
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振り返ってみれば 新しい世界観
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大峯奥駈道…鞍部には「深仙宿避難小屋」
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過ごした時間だけ 前に進めます
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「古田の森」を過ぎたこの場所が 素敵だった
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ふと足を止めて 振り返りたくなります
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警戒しているような いないような…
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自然の区画割が 数多くありました…千丈平
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関西最高峰「八経ヶ岳
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遥か彼方へと 峰々が続く 西方
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ご尊顔を拝しましては恐悦至極に存じます
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真新しい文字が 光っていました
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雲が降り立つ 午後のひと時
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南面には 大日岳から続く 大峯奥駈道南部
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北面に対峙するは「八経ヶ岳と弥山」
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台座の連弁には 聖宝ノ宿跡「理源大師」の姿
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山頂から眺めても 素敵な道
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森が セピアに染まっていく
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苔は金色の野となり 一日を終えます
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幽玄の世界に包まれる 千丈平
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西方浄土阿弥陀仏の世界観

12月11日
目覚める度に聞こえる風の音。しかも、風は息を付かずに吹いています。幸いにも上空を通り過ぎているため、幕営地に影響はありません。ただ、時折ボタッとフライシートを叩く音が、雨なのか、雪なのかは判断がつきません。同じ山域とは言え、風も穏やかで晴れる予報は20km北にある山上ヶ岳熊野灘により近いこの山は、気象条件が大きく変わるのかも知れません。とにかく、夜明けまでの回復を信じます。
アラーム音が5時を知らせます。風の勢いは変わらず、山における気象条件の厳しさを感じます。念のために外の様子を窺いますが、ミルキーウェイな世界。残念ながら、彗星の撮影は諦めざるを得ません。次の期待はご来光。1時間後にアラームをセットするも、やはり、状況は変わらずで「駄目だこりゃ」。(自宅に帰って考え直せば、もしかしたら幕営地は雲海ゾーンに入っており、山頂は晴れていたかも知れない。でも、そのリスクを負うほど自分は若くない…)
日の出時刻は6時55分。外に出てみると、雪は降っておらず、霧氷もなし。ただ、フライシートは氷結していました。稜線を覆う雲は激しく流れているのがここからも判ります。やがて雲間に広がる薄っすらとした青空。東の空は夜が明けたことを知らせる光彩を放ち、雲が取れるのも時間の問題でしょう。
朝食後、片付けの準備をしながら、気になるのは山頂からの景色。今朝の状況から、きっと谷間に雲海が見えていることでしょう。すでに青空は広がり、周囲の稜線も見え始めてきました。山頂方面も雲が取れている様子です。
今回の山行は体力的に余裕があり、山頂までの15分を登るのは、気持ちの問題。今年の2月 編笠山で感じた出来事から、まだ、気力を失うわけにはいかず、バディに了解を得て、1人で出発。9時前でしたが、すでに何人かの登山者が山頂に向かっていました。
出合までの途中で振り返ってみれば、昨日歩いた笹原稜線越しに谷間を埋める雲海。思っていた通りの世界がそこにありました。更に出合を過ぎたところから、昨日は気付かなかった熊野灘が、朝陽を浴びて輝いています。その手前、幾つも連なる雲海の谷間は天上界へ続く階段にも思え、黄金に輝く他界がその先に広がっているようで、正しく、釈迦ヶ岳の世界観。彗星や御来光は残念でしたが、この景色のためだと思えば、納得も出来ます。
真っ青な空一面の山頂には、10名近い方。それぞれがそれぞれに時間を過ごされています。春まで登れない八経ヶ岳や弥山は、どの頂よりも白く、大台ヶ原山の大蛇嵓は望遠レンズを通してその岩壁の険しさを知ります。同じ山でも時間や天候が異なれば別の世界。山と一期一会。
山頂を後にし、テントに戻る時にも何人かの登山者とすれ違い、アクセスの不便さを差し引いても、快晴の週末は賑わうものです。それは下山途中も続き、笹原の稜線歩きを皆さんが楽しんでいる様子でした。
さて、テントに戻って撤収開始。結局、私達の貸し切りでしたが、深夜、バディの所へは訪問者(多分、小動物)があったようです。静かな幕営地は望むところですが、登山口には「熊注意」の看板。登山道とは違うリスクがあります。
暖かい陽射しを受けながら、緩やかな笹原稜線を下ります。熊野灘は黄金色に輝き続け、現実世界に戻る私達を見送っているかのようです。振り返って眺める釈迦ヶ岳如来像の立つ山頂はここから見えないことも登ることで初めて知ります。角度によって様相が変わる大日岳。鋭角な姿に戻れば、笹原稜線ともお別れの時。巨木ゾーンを過ぎ、今歩いてきた稜線を樹間に見れば、駐車場の登山口に到着。
最後の階段を降りきるまで慎重に歩いて、今回の山行は終了。あとは、20km近い核心部の林道を抜け、国道へ合流することです。
下山後は、家庭的なお店でいつもの…(笑)

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こんなはずではなかった朝…
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今はこの世界を 楽しみます
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ミルキーウェイが 解き放たれようとしています
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どうやら 夜が明けたようです
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今は大地を 彩っていました
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雲海へ続く 笹原の一本道
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遥か彼方につづく 黄金の世界
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天を衝く錫杖は 大峯奥駈道の頂
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御来光に代わるこの展望に…感謝
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山散歩ルートも来春までお預け…大台ヶ原
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今冬初の霧氷でした
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いつまでも 眺めていたい世界
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次は 御来光を拝ませてください
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さて バディのところへ 帰ります
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また 来年もお世話になろうと思いました
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山が連なる景色は 大峰山系の世界
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熊野灘と共に 下山します
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立ち枯れと冬枯れが混在する「聖なる森」
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前回と違い 存分に頂を 拝めました
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帰りは 巻き道で…古田の森 1,618m
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少し露出を補正して…
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この道は 釈迦ヶ岳の代名詞になります
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駐車場が見えてくると 笹道も終わりが近い
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素晴らしい稜線に あらためて感謝
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冬の味覚を素材にした いつもの…(笑)