Satの 山と一期一会

春夏秋冬。山との出逢いはいつも一度限り。

秋の足音を聞きに 南アルプス

10月1~2日 長野県 仙丈ヶ岳
SNSの情報に駐車場問題を心配しながら向かいます。

10月1日
週末は快晴予報となり、これまでの情報から混雑することは予想していました。仙丈ヶ岳の登山口「北沢峠」へは、山麓「仙流荘前」から伊那市が運行する南アルプス林道バスで向かいます。始発便は5時30分。しかし、未明から長蛇の列となり、繰り上げをし、随時運行になった模様です。
今日、私たちの行先は「藪沢小屋」。中腹にある避難小屋です。CTは3時間弱。10時5分発に乗車し、北沢峠着は11時。早めの昼食をとって出発しても、余裕の行程です。
心配された駐車場は河川敷に臨時が設けられ、まだ空きがありました。さすがにこの時間帯にもなれば、バス停に列はなく、出発50分前とは言え、5番目でした。と言っても、その後乗客は増え、結局、1台増便となります。この時間の乗客は日帰りではなく、峠にある「こもれび山荘」や「長衛小屋」、または「馬の瀬ヒュッテ」「仙丈小屋」になると思われます。まさか、私たちのように「藪沢小屋」を目指す方はいないでしょう。
昼食をとる間に乗客は居なくなり、その多くは仙丈ヶ岳方面へと行かれました。登山道はトイレ横から始まっていますが、私たちは少し長衛小屋方面に下がった所にある登山口から入ります。ここは小屋からの道と合流した後、2合目で主ルートと合流。直登で始まる主ルートではなく、トラバース気味に登るルートを教えてくれたのは藪沢小屋の管理人である高校の先輩。すでに南アルプスに入って40年を越える山人です。
初めて南アルプスを訪ねたのは8年前の夏。藪沢小屋を利用し、先輩の案内で兄夫婦と共に仙丈ヶ岳に登頂。梅雨真っ只中にも関わらず、青空の広がる山頂で見た南アルプスの峰々を、その後、歩くことになります。そして昨夏、7年振りに訪ねた夏の仙丈ヶ岳。帰りに寄った小屋で先輩と再会し、そのまま泊まることに。先輩が小屋の管理をされていることは昔から知っており、当時、何やら中途半端な場所だと思っていた「藪沢小屋」。今では避難小屋として絶妙の立ち位置であることはもちろん、今回のような山行にも重宝します。(1泊 5,000円)
2合目で合流した後は、直登-トラバース―直登の繰り返し。時代を語る森は同じような体をなす八ヶ岳とは趣が異なり、大人びた印象です。朝の賑わいを感じるのが、下山者とのすれ違い。山頂の混雑ぶりは想像できます。
5合目、大滝の頭を馬ノ背方面へ。ここでも周回してきた下山者とすれ違います。滝のような小川が落ちていく方に目をやれば、鋸岳から東駒ケ岳(甲斐駒ヶ岳)へと続く稜線が視界を二分し、ほどなくして藪沢小屋に到着。少し広くなった小屋前では、今まで目にしたことのない登山者が休憩する姿。そんな大勢の視線を背中に感じながら、建付けの悪い扉を開けた私たちは、薄暗い小屋へと消えて行きました。
事前に連絡を取り、中の様子は判っていました。まずは明かり窓の付いた2段ベッド式の上段に上がり、荷物の整理。時々、扉を開けて様子を窺っている気配を感じますが、さすがに入室はされません。やがて、人の声はしなくなり、私たちも活動を再開。と言っても、写真を撮ったり、水を汲んだりするだけですが…。AMラジオを聴きながらコーヒーを飲み、気が向けば小屋を出て東駒ケ岳を眺め、太陽とともに時間を過ごします。夕暮れ時、「冷えてきたなぁ」と思って室温を見れば、9.7℃。下界では冬です。
満天の星が輝く夜。7月に買ったカメラの星空軌跡機能を試します。撮影は簡単ですが、ラジオを片手に、小屋の外で待機した10分間は熊との恐怖に闘った時間でした…(笑)


1泊2日 南アルプス山行 始まりの朝

代理人のザックが バスを待ちます

この案内板は 仙丈岳駒ヶ岳・・・車窓より

8年振りに ここからスタート

大きな森の 小さな命

腰を屈めて 樹間の北岳

山の大きさを感じる登山道

背後にそっと 東駒ヶ岳

秋の足音が 近付いてきます

大滝頭と馬の背を結ぶ トラバース道

沢とともに 景色が近付きます

鋸岳が広がれば …

到着です…藪沢小屋

小屋内は シンプル イズ ベスト

小屋から数10秒で 唯一無二の展望

赤岳が 少しだけ顔を覗かせています

まるで 雪のような 白い岩体…東駒ヶ岳

藪沢小屋名物 その1…小屋を支えるワイヤー

藪沢小屋名物 その2…水場の赤いハート

山肌の影が 時間を告げます

賑わった一日を 終えようとしていました

やがて 闇に沈む 南アルプス

小屋前の狭い空には 果てしない世界

秋の星空と言えば 「アンドロメダ銀河」(左上は流れ星)

新しい星空を 頂きました

10月2日
午前4時 室温は4.7℃。
唯一、外界との接点は開けると閉めるのが困難な引違窓。そこから入る明かりは弱く、まだ、薄暗いと思いながら外に出ると、すっかり明るくなっており、東駒ヶ岳の右側には曙色に染まった雲。今日も良い山行日和でしょう。
先輩の顔を思い浮かべながら小屋にお礼を告げ、いざ出発。注意が必要な出発・到着前後15分。特に藪沢までのルートは片方が落ちたトラバースであることから、気負いや焦りは禁物です。
ヒュッテから馬の背までの登りは、ダケカンバとハイマツが共生する樹林帯。これぞ南アルプスです。そして、先輩たちが整備するこの山域。腰にナタをぶらさげて歩く後ろ姿が景色と重なります。
ナナカマドの実がひと足早く秋を演出すると、やがて視界が開けてきます。昨日から幾度となく見た鋸岳から東駒ヶ岳越しに八ヶ岳連峰。右側には中央アルプスと伊那谷。そして、御嶽、乗鞍から始まる北アルプスは白馬三山へと続きます。前方にはまだ小さな仙丈小屋と藪沢カールを抱く3,033m 仙丈ヶ岳。登頂した登山者の姿も見えます。あの山頂ではなく、行き交う人の少ないここで過ごしたい。そんな誘惑に襲われます。小屋が近付くにつれ、白いものが道端に見え、手に取ってみると、それは霜柱。水場の周囲には水滴が凍っているところもありました。
小屋前はカールを駆け下りた風が吹いていましたが、登り始めると、それも止み、朝の陽射しに身体が温まります。
「地蔵尾根は俺の通勤路や」と話していた先輩。その分岐を過ぎればピークへ続く一本道。
仙丈ヶ岳は藪沢、小仙丈沢、大仙丈沢と3つのカールを擁しています。これに、小仙丈、馬の背、地蔵、仙塩の4つの頂稜が組み合わさった端正な山容は南アルプスの女王と称される所以でしょう。
これまで登頂した3回は全て貸し切り状態であり、今日のように賑わった山頂は異世界。少し下ったところで休憩します。また、女王とは相性が良く、いつも全方位のパノラマ展望。そんなことで展望よりも、ウラシマツツジの草紅葉に感動しました。かつて歩いた南アルプスの稜線。時間の経過以上に懐かしく感じる山行。そのきっかけをくださった先輩にここでも感謝です。
藪沢カールを巻くようにして小仙丈尾根へと向かいます。このルートで最も好きな場所。ここだけ荒々しい東駒ヶ岳が小さく跪いているように感じます。反対側の大仙丈カール。その主峰、大仙丈ヶ岳はお花畑の先にある岩稜帯の頂。ここも先輩が勧めてくれた道。
この山を登るとき、常に先輩を感じ、そして、これからも大切に歩いていきたいと思う道。
仙丈ヶ岳と言えば、小仙丈カール越しの姿が代名詞。南アルプスらしい雄大な姿だと思えますが、ここからだと山頂は見えず、これは、初めて訪ねた人への試練かも知れません。そんな定番写真を撮れる小仙丈ヶ岳は山頂ほどではなくとも賑わっており、私たちは巻き道へと進みます。
ハイマツの海に開かれたひと筋の道。進んでほどなく2羽の雷鳥が何かを啄んでいました。この辺りに居ることは知っていましたが、この時間帯では無理だろうと思っていたため、女王からの素敵な贈り物をいただいた気分です。一向に立ち去る様子はなく、避けて通る道幅もないため、ゆっくりと距離を縮め、しかし雷鳥にとっては追い立てられる格好になりました。小走りに去っていくその後ろ姿は、映画「となりの…」のワンシーンのようです。
主ルートと合流。まだまだ北沢峠は遠く、小石に浮石、木の根に足を取られることがないよう注意しながらの山行が続きます。定刻13時10分発のバスを予定していましたが、今日も随時運行をしており、約1時間早く出発。途中、何台もすれ違う北沢峠行の回送バスを見る度に運行会社には感謝です。
下山後は、昨年寄れなかった古民家カフェでいつもの…(笑)


駒ヶ岳上空を 龍が泳ぐ

新しい一日を 東駒ヶ岳とともに

光の世界「馬の背」を目指します

少し遅れて 鋸岳も 目覚めてきました

朝陽が秋を演出します

ここから先は 展望の道

切り取って ナナカマドの秋

仙丈ヶ岳と言えば、広大なハイマツの海

藪沢カール越しの展望は 最も奥深い

振り返って 馬の背 そして 重なる峰々

高度を感じる西側…中央アルプスと伊那谷

仙丈ヶ岳と南部…大切な記憶

また 静かな時に 来ます

令和な表示板とお決まりの 1.2.3

残雪期は辛いが 今は ハイキング気分…藪沢カール

小仙丈尾根が 最も東駒ヶ岳と対峙します

遠望が変わる 小仙丈カール

眼下には 今朝の道…馬の背ヒュッテ

視覚的核心部…小仙丈尾根

秋の足音は そこかしこで 聞こえてきます

草紅葉 初めて見た時からのお気に入り…ウラシマツヅジ

またお会いしましょう…小仙丈カール

早くも 冬への準備が 始まります

素敵な 時間を ありがとう

ここで 東駒ヶ岳とは お別れです

素敵な音楽と共に いつもの…