Satの 山と一期一会

春夏秋冬。山との出逢いはいつも一度限り。

新緑のテントライフ…聖地‘上高地’

6月2日~3日 長野県上高地
「次は、ニリンソウが咲く頃にカフェを訪ねます」
その約束を守るため、5ヶ月振りの駐車場に向かいます。

6月2日
上高地。今は信州を代表するリゾート地。初めて訪ねたのは高校時代。その頃は、槍穂高を目指すアルピニストを見ているだけの地。そして、河童橋から眺める景色は山への憧れを抱かせる、僕にとっては‘聖地’。
冬、真っ赤な新芽を付けていたケショウヤナギは青々とした新緑に身を包み、遊歩道沿いには、初夏の上高地を代表する花「コナシ」が咲き始めています。梨のような小さな実を付けることから「コナシ」と呼ばれていますが、図鑑では「ズミ」。そして、その名前が付けられた「小梨平キャンプ場」が今回の目的地のひとつです。
そのコナシより一足早く咲くもうひとつの代表的な花と言えば「ニリンソウ」。特に、奥上高地「徳沢」周辺の林床は一面、白い妖精たちで溢れています。ここ数年、上高地幕営する場合は「徳沢天国」と我々が呼ぶ「徳沢キャンプ場」。今回はもうひとつの目的「約束の地」が徳沢の手前、明神にあるため、グリーンシーズンでは初めて小梨平で張ることにしました。初めてとは言っても、槍・穂高蝶ヶ岳…それらを目指す度にキャンプ場は通っており、冬には張ったこともあります。以前から「山を目指せなくなったらここだね」と言っていたキャンプ場は、思いのほか早く訪ねることになりました。
キャンプ場は森林ゾーンと梓川ゾーンのふたつに分かれ、今日は梓川越しに穂高連峰を望む「梓川ゾーン」を選択。
日曜の朝、週末を上高地で過ごした方で賑わっていました。お目当ての場所も埋まっていましたが、近くで仮設営を行い、まずは明神を目指すことにします。
今日の天気は薄曇り。花を愛でるにはちょうど良い空模様です。早速、まだ寝ぼけ眼のニリンソウが道端で揺れています。そして、徐々にその群落が点在し始める他、エンレイソウの仲間、サンカヨウ、ツバメオモト、コイワカガミ、ラショウモンカズラなどが足を止め、また、ウグイス、コマドリ、ミソサザイを初め、聞いたことのない鳥たちの囀りが頭上を覆います。
これまでこの辺りを歩く時は、テント装備であり、所謂、「通過区間」。また、観光で訪ねた時は8月の夏真っ盛りで、新緑が眩しい森をゆっくりと歩いたことがありません。この道を初めて通ってから今年でちょうど40年。上高地の過ごし方を通して、時代の流れを感じます(笑)
明神を過ぎて目的地のカフェへ到着。「あれっ?ロープが…休み?!」。電話をしてみると急用のため、臨時休業のこと。明日は営業をしているので、事無きを得ましたが、一瞬ヒヤリとしました。
帰りは10数年振りに「梓川右岸コース」を利用。木道が続く湿原ルートの印象が残っていましたが、意外と森の散歩道も多く、見る景色一つ一つに懐かしさと新鮮さが交差するコースでした。
キャンプ場に戻り、テントを設営し直して、本日の予定は完了。穂高を眺めながら午後の過ごし方を考えます。河童橋から歩いて5分程。観光客に混じってビジターセンターなど周辺をサンダル履きで散策する不思議な感覚。そして、再び、穂高と対峙する。こんな贅沢な時間はありません。
夕刻、ベンチをテーブル代わりにしての夕食。梓川の川音、ウグイスの谷渡り、暮れゆく吊尾根。徳沢にはない開放的な景色が小梨平の心象を良くします。
「小梨平キャンプ場」は今日から「極楽」と呼ぶことになりました。

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いつも この景色から始まりを感じます
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バスを降りると 出迎えてくれました…コナシ
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何度訪ねてもワクワクさせる 朝の河童橋
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ここからの焼岳を結構 気に入っています
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小梨平キャンプ場へは 梓川ルートで…
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ラショウモンカズラ…至るところで咲いていました
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翼の青・白が森の中でも目立ちます…カケス
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朝の散歩タイムに 出逢いました
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上高地 白花シリーズ その1…ツバメオモト
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その2は 名前通りの姿…ニリンソウ
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その3は 名前も3番目…サンカヨウ
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赤系は この花だけでした…コイワカガミ
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どれにしようか迷ってしまいます
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40年前と変わらぬ崇高…明神岳
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雰囲気が変わる…梓川右岸ルート
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上高地のもうひとつの顔…焼岳
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新緑のグラデーションに 初夏の香り
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いつか鳥たちを目的に訪ねてみよう…ヒガラ?
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初めての近さに感動…ウグイス
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河原には河原の来訪者…カワガラス(トリミング処理)
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雲が切れて 光が届きます
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追いかけて イカルチドリ (トリミング処理)
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小梨平ならではの 景色が楽しめました
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夕刻の散歩 高らかに ウグイスの谷渡り (トリミング処理)
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至福のひととき 上高地に乾杯

6月3日
当初は曇り空となっていた空模様も、前線が北上せず、深夜2時頃には晴れる予報。深夜1時、23時には少し星が見えていたので期待を込めて顔を覗かせると、漆黒のカーテン。そして、2時過ぎ。期待通りに大小の光を散りばめた夜空の大キャンパス。
支度を整え、河童橋を目指します。徳沢でもそうですが、暗闇は平気でも「熊」が怖い。日中の目撃情報はあっても、この時間の情報はありません。南アの小屋でテン場から離れた谷間の水場にはラジオを流していたことを思い出し、スマホの音楽を鳴らし、手には安全装置を外した熊撃退スプレーを持って出発です。無事、河童橋に着いて渡ろうとすると、ヘッデンの灯りが橋上の大きな影を浮かび上がらせます。僕と同じように星空撮影に来ていた方でした…^^;
撮影を続けていると、空の明けていく様子が肉眼でも見て取れます。それは、撮影すると一目瞭然。これ以上の撮影は困難となり、帰りも熊に注意をしながら歩いていると、人の名前を呼ぶような声が未だ暗闇の森から響いてきます。昨年、大峯で見かけた「ジューイチ」でした。
シュラフにもぐって日の出時刻を確認すれば「もう寝てられないか…」。この日の長野県の日の出時刻は4時33分。早くなったものです。ベンチに座りながらその時を待ちますが、予定時刻を過ぎても一向に穂高の稜線は目覚めません。しばらくして木々の間からは、朝陽に輝く焼岳がストライプ状に見えています。
「そう言えば、前穂に登っていた時、乗鞍岳、焼岳、西穂高と順々に陽が当たっていったなぁ」と記憶が蘇りました。
朝食の準備をしていると明神岳の肩当たりから陽が射し始め、ケショウヤナギの陰影を際立たせています。そこからしばらく繰り広げられる光のショータイム。朝の一期一会。
山の頂も、麓も、里も関係なく、刻一刻と変化する様は時の流れを見ているかのごとく、心に刻み込まれます。そして、正しくここは「極楽」(笑)
気が付けば、穂高の峰々が目覚め、上高地の森も活気を取り戻します。昨日と打って変わって青空が広がり、梓川の川面はエメラルド色のグラデーション。ウグイスは高らかに鳴き、キビタキやイカルチドリが現れては去って行きます。朝の梓川畔は人間だけでなく賑かです。
昨日、果たせなかった約束。再び、明神を目指します。林床に届く光は力強く、照り返しは花の存在を消し去ります。ただ、鳥たちの囀りに変わりはなく、不意に舞い降りた「ミソサザイ」に続くことを期待しましたが、それは叶いませんでした。
誰も居ない明神橋。1月はここでモルゲンロートに輝く頂を見上げました。今日はブルーバックの明神岳。その頂が見守る明神池の畔に約束の地はあります。
平日の9時。お客は我々2人だけ。宿泊客を見送った女将さんと談話。すぐに思い出していただき、そこからあっという間の1時間。混雑している日曜より、かえって良かったかも知れません。
「また、来ます」新たな約束を交わし、上高地で大切にしたい地を後にしました。
この時間帯になると、登山者より観光客が目につく帰り道。少し早いけれど今回のテントライフを振り返ります。雨の心配はありますが、5月より人が落ち着く6月は、テントライフに適しているのかも知れません。霧氷が支配するモノトーンの世界も「上高地」であり、あらゆる生命体が手を伸ばし、太陽の恩恵を受ける世界もまた「上高地」。
「こんなことを続けていると山へは行けなくなるなぁ…」と思わないでもありませんが、安全登山を考えた場合、ひとつの選択であることは間違いありません。まだ本当の「極楽」へは行きたくないので、しばらくはここで過ごしてみようかと…。
下山後は、里の山友と合流してからのいつもの…(笑)

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天と神降地をつなぐ 天の川
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焼岳と天の川…河童橋より
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レンズを通して 一足早く 夜明けを感じます
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早起き「焼岳」…いつでも 男前
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もうあの稜線を歩くことはないだろう…西穂高岳
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光のシャワーが降り注ぐ…朝の上高地
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ようやくお目覚め…奥穂高岳
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小梨平の朝は 一期一会
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穂高とともに 朝食を…極楽だ(笑)
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藪の中から おはようございます…ウグイス
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とりあえず 撮ってみれば キビタキでした(トリミング処理)
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訪ねる度に違う表情…明神
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ドラミングではなく 飛び回っていました…コガラ
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穂高神社奥宮の参道でもある 明神橋
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5ヶ月振りの 灯りです
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地元三重県産セミノールのコンフィチュール添え
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逢えなかったコマドリを 1羽連れて帰りました
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上高地~明神でも 堪能できました…ニリンソウ
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林床に届く スポットライト
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上高地は 花に鳥に動物に魚…カワマス
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ようやく気付けました…コチャルメラソウ
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河原の門番…ミソサザイ(トリミング処理)
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上高地でも出逢えます…コミヤマカタバミ
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穂高よさらば また来る日まで…♪」
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杏村から便りが届いた里でいつもの…(笑)