Satの 山と一期一会

春夏秋冬。山との出逢いはいつも一度限り。

観光登山家…アルプス一万尺と花の3日間

7月13~15日 長野県乗鞍岳

梅雨後半の3連休。空模様を追いかけての1000㎞周回は山行と観光。まずは、21年振りの登頂を目指してシャトルバス停のある駐車場に向かいました。

7月13日
初めて乗鞍岳に登ったのは、高2の夏。山行よりも霧に包まれた真っ黒な車窓を眺めながら御来光の時間を待っていたことが思い出されます。そして、初めての3000mで夢中になって高山植物を撮っていた時に感じた息苦しさ。今では懐かしい10代の思い出…。あれから40年近くが経ち、起点となる畳平へは山麓からのシャトルバスとなり、登山道から車道まで続いていた雪も、随分と減ってしまいました。
午前中は時折陽が射すも、全体的に高曇りの予報。雲海上の槍穂に期待して、始発便(6時10分)で乗鞍高原観光センターを出発しました。
カーブが多いのは記憶に残っていましたが、時々現れる対向困難な道幅は意外でした。この時間帯では下りの通行車はありませんが、繁忙帯ではなかなかの迫力でしょう。やがて、森林限界を超えると同時に雲も抜け、期待通り雲海に浮かぶ槍穂高。2019年北アルプスの開山です。
終点「畳平」の標高は2702m。50分で標高差約1200mを登ったことになります。まずは、15分ほど休憩所で過ごし、身体を高山に慣らします。
出発してすぐに目に留まったのはハクサンイチゲ。バスで登ったとは言え、高山特有の風を感じながらこうして高山植物を眺めると、山に入った感が急速に上昇します。富士見岳の分岐を過ぎたところで、高山植物の女王「コマクサ」の群生地と遭遇。こんなところで自生していたのかなぁと記憶を辿ります。
前回、乗鞍岳を訪ねたのは家族登山を始めた頃で、魔王岳からの御来光と固形燃料では中々お湯が沸かなかったこと等、やはり、山行以外の思い出。また、17年前、今では他界した2人の親と共に訪ねた畳平のお花畑。「行ってて良かったね」そんな思い出話をバディと交わしながら、気付けば、肩の小屋に到着。ここから道は岩が露出する本格的な山道となり、稜線までは約1時間。相変わらず、雲海に浮かぶ槍穂から、今にも沈みそうな八ヶ岳甲斐駒ケ岳。中でも、本当に蓑笠のような山頂部分のみを覗かせた飛騨の名峰「笠ヶ岳」が印象的でした。
稜線に上がると飛騨側からの風が体温を奪います。それでも3000m付近を体感していると思えば、寒さではなく、設定温度を低くしたクーラーの風のよう…と思うのは個人的感想(笑)
上小屋の分岐を過ぎ、最後の登りを終えた先にある鳥居をくぐると、3026m 乗鞍本宮神社奥宮が建つ乗鞍岳に登頂です。そして、雲に隠れながらも、御嶽山を眺めることが出来たのは感無量の出来事。ところで、高2の夏、山頂付近で高山植物を撮ったはずなのに、今は何も咲いていません。当たり前の景色が時の流れと共に変わっていきます。これも、当たり前…。
近年、興味がありながらも一歩を踏み出せない「岩」。下山時の稜線で黒い岩や赤い岩等点在し、中でも、明らかに異なる黒い岩は乗鞍岳が火山であった証し。触ってみると、両手でかかえる大きさの岩が軽々と片手で摘み上げることが出来ました…ちょっと、感動(笑)
最後にお花畑を散策し、6時間の北アルプスは終了。
下山後は、乗鞍高原で待ち合わせをした山友が事故の影響で通行止めとなった困難を乗り越え、運んでくれた逸品でいつもの…(笑)

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さて、あの頂へ…
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車窓から眺める雲海 こんな日の特典です
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White inside white…ハクサンイチゲ
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鶴ケ池へと続く お花畑
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お久しぶりの…イワヒバリ
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群落があちこちに…イワツメクサ
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色の対比が素晴らしかった
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バスで楽しむ山行も そろそろ有りです
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瑞々しいお姿の 女王「コマクサ」
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このバスを見ると テンションが上がります
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バス停から約半時間でこの景色…鶴ヶ池
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不動岳を背後に 不消ヶ池
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打ち寄せる雲海が静止する…
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肩の小屋までは 林道のような道…剣ヶ峰・蚕玉岳・朝日岳
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摩利支天岳越しに 北アのランドマーク「槍ヶ岳
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乗鞍岳コロナ観測所…背後は「笠ヶ岳
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この景色が 乗鞍岳だと思う
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この池を見れば 山頂まであと少し…権現池
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近年は あの山から乗鞍岳を見ることが多かった…御嶽山
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21年前 この場所で 娘の写真を撮りました
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ここは まさしく空中庭園…肩の小屋前より
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お花畑へは ショートカットで向かいます
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一面の白…お花畑のハクサンイチゲ
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両親が歩いた年齢まで 山を歩いていたい
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2時間30分の遅れは 東屋で いつもの…(笑)

7月14日
2日目の予報は雨のち曇り。天候に合わせて湿原トレッキングは午後に回し、午前中はドライブ観光。
今回訪ねる湿原と原生林の森は、以前から気になっていた場所。生憎の空模様ですが、却って、山行日和でないことで訪ねることが出来ました。
お目当ての花は「ニッコウキスゲ」と「ササユリ」。そして、カツラの大木。また、入山口では「ショウキラン」が見頃だと教えられ、更に、楽しみが増えました。高低差を繰り返す山道を1㎞ほど進むと、突如現れる緑とオレンジの空間。湿原への玄関口です。
入山早々、ここは熊の生息域と言うことで、ブリキ缶に棒を付けた熊除けが設置されて、その後、数100mおきにぶら下がって通る度に打ち据えていました。また、普段はザックのポケットに入れた熊除けスプレーも、今日は安全装置を外した状態でパンツのサイドポケットに入れ、いつでも噴射できるようにしています。しかし今、目の前にある景色は、そんな緊張感を一気に解放させてくれました。
靄のかかった湿原には、幾重にもニッコウキスゲの波が漂い、その畔の道には、ピンク色したササユリが、まるで燈籠のように続いています。陽の光を浴びた眩しい世界も素敵だと思いますが、最近は曇よりして、視界が限られる幽玄の世界が性に合う感じで、正しく、今日の景色。
湿原を抜けると次は原生林の森へと入ります。ここからルートは3本に分かれますが、急登と表示された尾根道から上の湿原を抜け、沢筋の巨木ルートで再び湿原に戻ってきます。
と、ここでポツリポツリと雨。一時的なものかとザックカバーのみで歩き出すと、次第に雨足が勢いを増してきました。いくら森の中とは言え、限界点を超え、2年振りに合羽の出番です。
蒸し暑さと急登で一気に汗が噴き出す中、太古から続く木々の息吹を感じるかのごとく、ゆっくりと歩みを繰り返します。時間的なことや天候的なことから、一組の登山者とすれ違って以来、人の気配は感じません。人間界から少し離れた世界へ足を踏み入れてしまった。そんな時間が続きます。
そして、再び小さな空間が…上の湿原です。先ほどより随分と小さいものですが、水面の畔に広がる浮島に真っ赤な模様が浮かび上がっています。近付いてみると、食虫植物のモウセンゴケ。これほどまでの群生は初めてです。ますますこの地に興味がわきました。
入山時に教えていただいた「ショウキラン」。どんな姿がわからず、足下を注視しながら歩いていましたが、そんな心配は余所に、特徴ある姿はすぐに見つけることができました。
自宅でショウキランについて調べてみると、通年は地下茎の形で成長し、花期(1週間程度)のみ花茎を地上に伸ばし、私たちにその姿を魅せます。光合成を行わず、菌類から有機物を得る腐生植物は古典的な呼び方で、ユウレイソウと呼ばれるギンリョウソウもこの仲間だそうです。
森に平地が広がり始めると、カツラの巨木に出迎えられ、そこからブナを交えて巨木の森となり、まるでこの素晴らしい世界の門番のようです。そして、再びニッコウキスゲの咲く湿原へ。湿原は一方通行で周回するようになっています。こちら側にもササユリの燈籠が続き、また、中央には湿原の妖精「ワタスゲ」が霞と同化するように小穂を揺らしていました。
もし、三途の川があり、その手前に綺麗なお花畑があるとしたら、それはここのような景色かもしれない。
入山口に戻ると、先ほどとは別の方が私たちの帰りを待っていて下さり(と言うか、帰れなかったんだと思います…)、お詫びとお礼を伝えました。
下山後は、お店が開いていないため、とりあえずでいつもの…(笑)

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悪路の終着点に 待っていた景色
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この天候であるが故 たどり着いた景色
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まずは ギンリョウソウが 出迎えてくれました
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ササユリの 薄桃色は 曇り空に映えます
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この景色が いつまでも続くように…
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ミズバショウ(手前)が 咲く頃も 訪れてみたい
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湿原から原生林への森へ…巨木ゾーン
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初めてみる花…名前は後で知ります
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上の湿原…何だろう この解放感
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群落が 浮島を染めます
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小さな世界の 弱肉強食
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この花がそうだったのか…ショウキラン
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よく見れば 蘭の仲間であることが わかります
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森を守るかのごとく…カツラの門番
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素晴らしい森も 出口が近付いてきました
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帰りの景色も 楽しみです
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蘭の一種…ヤマサギソウだと思う
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帰り道の方が最盛期…ササユリの灯篭
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本日のお目当てが共演
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この景色を守るのは 訪ねる我々の意識だけ…
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あの向こうに 黄泉の世界が あるのだろうか…?
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この花も初めて…シラヒゲソウ
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梅雨がお似合い…オオバギボウシ
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熊予防 最後の缶…
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とりあえず車中にて いつもの…(笑)

7月15日
最終日は福井県との県境に位置し、加賀の名峰「白山」を望む斜面に、約20年前から高山植物を主とした白山の自生植物の保護を目的に整備された「白山高山植物園」を訪ねました。
国道から脇道に入り、しばらく進むと、幟が並ぶ駐車場に到着。まずは、午前中に仕入れた「いつもの Part2」で糖分補給。植物園までは直登とブナ林の2ルートがありました。今日は最短の直登を選びましたが、草木を刈り取って真っ直ぐに整備された階段状の道は、3日間随一の核心部かも…(笑)
開園期間は6月1日から7月15日。そう、今日が最終日です。
ここにもニッコウキスゲが咲くようですが、開花時期はもっと早く、今日は「オオバキボウシ」や「マツムシソウ」の青色系やホソバコオニユリ、シナノナデシコ、ハクサンフウロ等のオレンシ、ピング系等、見頃は過ぎたとは言え、十分に花を楽しむことが出来ます。また、名札も付いているため、名前と花も一致できます。
生憎の天候にも関わらず、思った以上に来園される方が居り、自分たちを基準していた考えを改め直さなければならないと思いました。
この植物園をHPから抜粋して紹介すると、「白山山系は他山系から隔離された独立山系であり、そのため白山には他の山岳からとび離れて分布しているいくつもの豊かな植物群があります。 白山以西に白山以上の標高を持つ山はなく、日本高山の西の果てに位置することから、ハイマツをはじめ、白山の名を冠するハクサンコザクラやハクサンチドリ、クロユリなど白山を分布の西限とする植物は100種類を超えます。また、白山は多様な遺伝子資源を蔵するところとして国際的にも認知されています。つまり、白山は日本を代表する“自然の宝庫”ともいえる場所なのです。…<中略>…地球温暖化の原因は人間活動であることはもはや疑いようがありません。私たちの負うべき責任は重大であり、と同時に、私たちのくらしの基盤が種と種の複雑で微妙なバランスの上に成り立っている以上、人類の生存を危うくする生態系の崩壊は食い止めねばなりません。だからこそ、いま植物種の保存の方策を考える必要があるのです。このような考えのもと、白山高山植物研究会では、1998(H10)年より、石川県白山市の委託を受け、石川県自然保護課、ほか関係各機関と連携し、 高山植物を主とした白山の自生植物の保護に取り組んできました。」と言うことです。
白山で採取した種子から育てた高山植物は、今では約五十種類十万株にも及び、日々、訪ねてくる人々に安息を与えています。西山山頂直下、標高約800mの斜面に広がる高山植物園。いくつものルートがありますが、考えて歩けば、一筆書きのように全てを回ることが出来ます。
マツムシソウを見ると荒川三山の周回を思い出し、ハクサンフウロを見れば、正しく白山の記憶が蘇ります。花と山が繋がる山人は、高山植物園に咲く花でさえ山に浸れます。山が持つ懐の深さを改めて感じる出来事です。
晴れていれば白山(剣ヶ峰から別山)を眺めることは出来ますが、梅雨真っ只中では、それは無理な注文と言えるでしょう。
退園後は近くにある「白山砂防科学館」で断層や岩の説明を受け、乗鞍岳で感じた「岩」に対する一歩を踏み出せたように思います。
…花と触れ合った3日間。それぞれの環境は異なりますが、花を愛でる気持ちはいつも同じでした。

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帰り時間の関係から 最初にいつもの…(笑)
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何となく いい雰囲気…
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ノリウツギに見送られ 核心部を登ります
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色濃く 梅雨の紫…オオバギボウシ
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白山の冠…ハクサンシャジン
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花の名札は 助かりますね…キリンソウ
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高山でこの花を見ると 8月だと思う…タカネマツムシソウ
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秋のイメージもある…タカネネデシコ
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名札のない花もありました…^^;
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実をつけて 早いものは紅葉していました…ハクサンタイゲキ
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白山の冠 代表作…ハクサンフウロ
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どこでも このオレンジは目立ちます…ホソバコオニユキ
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高1の夏からのファン…シモツケソウ
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忙しくなく蜜を吸っていました…
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地味(笑)だけど 存在感があります…ヤマハハコ
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本日のピーク
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ピークからの 展望
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これは 初めてでした…シナノナデシコ
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山で 白色は少ないですね...ヤマホタルブクロ
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この花を初めて見た時は感動しました…キバナノヤマオダマキ
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蜂たちに人気がありますね…タカネマツムシソウ
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関西の山を冠に…イブキジャコウソウ
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ここから 白山を一望できます…駐車場より
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是非 訪ねて欲しい そして 説明を聞いて欲しい…白山砂防科学館
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白山山行の帰りには…白峰温泉