テントを担いで 北ア回帰
9月12~13日 長野県蝶ヶ岳
人気の高い山に伴う駐車場問題にドキドキしながら、真っ暗な林道を登山口に向かいます。
9月12日
すっかり回数を減らしたテント泊山行。気付けば2月の編笠山以来。テント泊した夏山はベース方式、無雪期の日帰りはトレランシューズの山行になり、今年初めて履く登山靴の 手入れを慌ててします。
そんなことで、蓮華温泉から白馬大池。そして、小蓮華山往復を考えていましたが、3日前に満杯となり、計画変更。種池、常念、黒百合…限られた候補地から決めたのは、予約不要の「蝶ヶ岳」。ルートは安曇野側から登る三股ルート。ただ、候補地の中で最もCTが長く、また、階段の多いこのルートで、久しぶりのテント装備を担ぎ上げられるのか不安は拭えません。
蝶ヶ岳は言わずと知れた槍・穂高展望の地。自分にとって山の原点は「白馬・八方池」。そして、ここは「槍・穂高の原点」。42年前、初めて登った蝶ヶ岳から見たその稜線は、厚い雲に覆われ「また、来るかい?」と問いかけているようでした。それから3年後、再び訪ねた稜線からは、山岳雑誌で見たままの景色が広がっていました。この時はまだ、目の前に連なる岩稜を眺めるだけで、登ろうとは思っていません。それから時が経ち、今では殆どの頂に立ち、そこに至る稜線や尾根、沢も歩きました。それは共に眺めたバディも同じこと。一冊の雑誌とこの山が与えた影響は計り知れません。
蝶ヶ岳は今回で7回目。8月に1回、5、7、9月に各2回。ルートは長塀尾根4回、三股3回。北アの中で最も登った頂です。
前日遅くには第1駐車場は満車となり、約800m手前の第2駐車場へと多くの車が戻っていき、それは出発前の今も続いています。朝陽が射し始めた 5時30分、日帰り山行の登山者で賑わう駐車場を出発し、まずは800m先にある登山口に向かいます。前方高くに連なる稜線。その標高差は約1400m。自宅周辺にない高さは、やはりアルプス。蝶沢と常念沢が合流した本沢は激しい音を立て、滝の如く流れています。そこに架かる吊り橋を渡れば、いよいよ登山が始まったと感じます。
力水で水補給。今回は夕食を簡単なものにしたとは言え、カメラ込みで24㎏。しかも、歩き始めから両足に違和感。5年前に、雪山トレーニングとして担いだ27㎏の山行が蘇ります。力水からひと登りで有名な「ゴジラみたいな木」。そして「まめうち平」まで続く第1急登区間。しばらく緩やかに森の中を進み、蝶沢を過ぎたあたりから始まる第2急登区間。長いトラバースを折り返せば大滝山との分岐点になり、頂上はハイマツの向こう側。
階段が整備された道は、足上げ運動が繰り返され、トレーニング不足の身体には疲労として蓄積されます。第2急登の半ばで休んでいると、山頂で会う予定だった安曇野の山友が登って来る姿が見え、1年振りの再会を喜ぶ間もなく、自分の23㎏ザックを担いで山頂に駆け出していきました。残された我々は、遭難救助された気分です(笑) その後も幾度となく現れる階段を何とかやり過ごし、ハイマツ帯の先に槍の穂先が見える最後の直線を迎えました。高曇りとは言え、槍・穂高の稜線に出迎えられ、まずは一安心。
前回も常念岳経由で登って来る山友と待ち合わせ、今日も同じ場所で待っていてくれました。一緒にテントを設営し、積もった話が始まれば、13ヶ月の空白があっという間に埋まり、時が再生します。ただ、陽射しのない稜線は肌寒く、時間とともに重ね着をするバンビー3。
「寒いから帰る」と山友が下山した14時半の気温は11℃。体感温度は6℃以下でしょう。
目まぐるしく変わった出発前の天気予報。結果は槍穂を始め、左に焼岳、乗鞍、御嶽。右に野口五郎、大天井と表裏銀座の稜線。後ろには、頸城山塊、浅間山、八ヶ岳、富士山、南ア北部と、正しく展望の山です。
日没前から始まるマジックアワー。遠く東の空から太陽を追いかけるように紅や紫が移り、やがて穂高の稜線から発せられた金色に輝く光の咆哮は、静かに消えていきました。その後もしばらく続くマジックアワー。その変化する世界に稜線を立ち去る機会が見つかりません。
静けさを取り戻した薄曇りの空に星空を期待出来ず、小屋の灯りが今宵の一番星。そして、眼下に広がる安曇野の夜景が、地上の銀河。
次第に西風が勢いを増し、テントを揺らします。数年前では考えられませんが、それを子守唄にします。夜も更け、諦めの悪い自分は、2度、顔を覗かせては空を眺めますが、暗闇の中に絹のカーテンを引いた世界が見えるだけでした。
登山口よりも登山口らしい 本沢の吊り橋
名前の如く 勢いのある流れでした…本沢
この流れが 本沢へ…蝶沢
樹林帯と階段が 三股ルートの特徴
荷物をシャッフル…前方は 23㎏ザックの山友
稜線が近付くと 秋の気配を感じます
山友と槍の穂先は ダブルケルン
今回も ここまで長い道のりでした
再会の喜びは この景色とともに…
ハイマツを眺めるホシガラスに 哀愁を感じました
この5年間だけでも いろいろあった バンビー3
足取り軽やかに 裏山を下りる 山友
横尾尾根・槍沢の槍ヶ岳周回から9年
2010年9月 初めて登った穂高…奥穂高岳
岩稜と北穂沢でそれぞれ登頂…北穂高岳
西穂高登頂から6日後に登頂…前穂高岳
氷壁の地を訪ねたく 中畠新道で「奥又白池」は2014年
蝶ヶ岳は 登った回数以上に 思いが深い
山に包まれていく…安曇野
高曇りならではの一期一会
焼山・火打・妙高…頚城山塊が黄昏る
この角度なら「天使のスロープ」だな…(笑)
時の流れを感じる 山の夕暮れ
槍と常念をつなぐ 紅の架け橋
やはり 槍ヶ岳は 「北アのランドマーク」
ここで味わうマジックアワーは 贅沢でした
夕食の準備をしながら…テントにて
1番星・2番星・3番星…
地上の銀河とともに 素敵な夢を…
9月13日
遠くで聞こえてくるアラーム音に気付くには、いつもより少しだけ時間がかかりました。風の音は大丈夫でしたが、はためくテントが頭に当たっては起こされる一夜でした。
昨夜から槍穂が染まるモルゲンロートの朝は期待していませんでした。まず、その稜線が見えていてくれたら感謝です。山天予報どおりに安曇野側は見事な雲海。稜線で幕営すれば雲海は付き物だと、職場で話していたとおりの朝になりました。昨日と同じような高曇り。それでも、雲海が景色に変化をもたらし、その光と影が織り成す世界は一期一会。
「雲と雲のサンドイッチ。具材は浅間山に八ケ岳」
蝶ヶ岳ヒュッテのテントサイトは、HPでは30張可。今回の40張弱でも余裕はありましたが、傾斜地になります。行楽シーズン前とも言える日曜日で、これほどの張数と言うことは、週末、まして行楽シーズンと重なれば、結果は想像できます。テント事情の他にも、この5年間で様々な山行スタイルが確立され、狭い範囲ですが、北アの現状を垣間見た気分です。
久し振りのテント泊山行とは言え、昨日の疲れが残っている現実。以前から感じていますが、もう経験だけで補えない年齢です。「山は逃げない」と言いますが、「気力と体力」は逃げます。今後の自分を守る術は「現状認識」と「山の選択」。ただ、今回の山行でもう少しだけ頑張ってみようと思いました。行きたい山に向かって、努力をしてみようと思いました。
9時出発の13時30分下山が今日の予定。都合が合えば、再び山友と会う予定です。
荷物整理を行い、瞑想の丘の向こうにある草紅葉まで散策。前回と較べて今年は1週間程度遅いように思えました。普段の生活で樹々の紅葉は身近ですが、草紅葉を感じることはありません。山ならではの景色です。まして、それが槍穂高と共演している「蝶ヶ岳劇場」。観覧料は1人2000円のテント代と標高差1400m歩き。席は自由です。
時折、雲間から陽が射し、稜線に影を落とします。見飽きることのない展望。その背景には、歩いてきた道のりがあります。深田久弥さんの有名な言葉「百の頂に百の喜び」。自分は「頂」よりも「道」に思いを感じます。そして、その思いは山だけでなく、人生に返ってきます。蝶ヶ岳から見る景色には、「山・人生の縮図」と言っても過言ではないぐらい、時が交差しています。
テントを撤収し、次はいつ来れるだろうかと思いながら飲む「最後の一杯」。ハイマツ越しに連なる峰々は、力強く、荒々しく、しかし感じようによっては、静かにじっとしている風です。
「10回は登頂したいなぁ…」は僕の思い。「テントが駄目なら小屋泊へ」はバディの意見。
ハイマツの小道を抜けて振り返れば、昨日、避雷針の台座で手を振っていた山友の残像が浮かびます。そしてその横には、ケルンのような槍の穂先が次の道しるべとなり、見送ってくれています。
山の事故は下山時。昨日も痛ましい事故がすぐ近くで起きていました。階段が続くこのルートは登りの辛さよりも下りの転落が核心部。下り終えた先にあるほっとする一歩目にも注意を払います。
ベンチ、蝶沢、まめうち平、ゴジラみたいな、力水。本沢にかかる吊り橋を渡れば、何となくゴール。
今回も色々考えさせられることになったテント泊山行。とにかく、無事下山に感謝。
山友とは都合がつかなくなり、また次の機会になりましたが、今度は1年先にはならないことを願います。
下山後は、この時世でテイクアウトのみになったお気に入りのお店でいつもの…。
紅の帯が 日本海上を横切ります
雲海の上空に もうひとつの雲海
今でこそ判る大人の雰囲気…大天井岳
朝が近付いてきました
今日のご来光は 「朧太陽」
青い山脈は 今夏登った仙丈ヶ岳(右端)
雲海にも表情があり 今日は 綺麗でした
山のグラデーションを楽しめる 朝のひと時
槍穂高の展望だけではない 蝶ヶ岳
ヒュッテに向かう途中からの「槍・穂高連峰」
下山前に 少しだけ 稜線散歩
小さな秋を 少しだけ感じます
幾度となく沿って歩いた 梓川
少し歩くだけで表情が変わりました
この道は 蝶槍・常念・燕岳へと続きます
見事な草紅葉…横尾本谷右俣
そろそろ ゆったりテントライフを 大切にしていきたい
八ヶ岳を眺めながら 下山開始
振り返って 最後のお別れ
ハイマツ広がる稜線は 北アルプスらしい景色
雲海に向かって 下ります
足元の 紅を楽しむ 帰り道
そろそろ常念岳とも お別れです
降りてしまえば あっと言う間の 2日間
数年振りに訪ねたお店で いつもの…