Satの 山と一期一会

春夏秋冬。山との出逢いはいつも一度限り。

ホームの奥座敷…テントライフ

11月12~13日 滋賀県イブネ
雨の上がりと共に予定を遅らせて、青空が見え始めた駐車場に向かいます。

11月12日
先週、訪ねたブナ清水。そのルート上から頂上台地の山容が良く見えていました。ホームにて、北の御池岳と共にテーブルランドと言われる「イブネ」。私達の住む県側から見て主稜線の向こう側にあることからか「鈴鹿奥座敷」と呼ばれています。ホームの滋賀県側は滅多に計画をしませんが、唯一歩くのがこのルート。先週と同様、根の平峠に向かう旧千種街道。
初めてイブネを訪ねたのは8年前の4月。その時は、三重県側の武平峠から入り、雨乞岳を経由して向かう計画でした。ところが、林業用のテープにつられて道を間違え、廃ルートで御在所岳に登ってしまいます。結局、当初と反対回りで向かうことになり、イブネまでは7時間半もかかってしまいました。三重県側から入る場合は主稜線を越えねばならず、また、雨乞岳周辺の沢は遭難者も多いことから、その後は滋賀県側ルートになりました。
出発の朝、予報とおりの雨。ただし、9時頃には上がる見込みで、予定を2時間ずらして10時に出発し、4年半ぶりの奥座敷を目指します。(滋賀県側からだと、前座敷か?)
杉峠の直下までは渋川に沿って歩きます。駐車地から眺めていた川を最後は一跨ぎで横切り、その源流域で水を補給する予定。
まずは桜地蔵で安全祈願をし、イワナの泳ぐ姿を橋の上から覗けば、登山道らしくなってきます。小さな沢にかかる木橋を渡ること数度。眼下に清流を眺めながら道幅の狭い箇所を通過することも数度。危険なルートと表現することはありませんが、ひとつ間違えれば大怪我に繋がり、渋川に滑落すれば発見も遅れます。そして、高巻きのトラバース道は人によっては怖いと思うことでしょう。
鈴鹿アルアルのひとつとして「一般道だからすべてが安全」とは思わないことです。
ゆっくりと標高を上げる中で、紅葉帯に入りました。先週は黄色が目立ったホーム。今日は赤系でした。巨木並木を過ぎれば、いよいよ川幅は狭くなり、流れも勢いを増します。落ち葉のトラバース道を過ぎると水場に到着しますが、何と、枯れていました。やむなく5分ほど戻り、先ほど跨いだ川で補給。一応これは想定内。
この期に及んで5kg加算されたザックの重みをひしひしと感じながら杉峠に到着。先週歩いた県境尾根と再会です。ここで街道から離れて杉峠ノ頭、佐目峠を経由して、イブネに向かいます。樹間に見るイブネの登坂は高低差を感じますが、周囲の景色に助けられ、ほどなくイブネワールドの玄関に立っています。以前は表札代わりに「イブネ」と書かれた木札のかかった木がありました。鈴鹿10座に数えられた今は、少し進んだ先にりっぱな山名標識が立ち、その美しき苔の世界は数多くの山雑誌で紹介されています。
4年半振りに歩いた旧千種街道は、記憶とは定かではないことを思い知りました。それは頂上台地も同じことで、何となく道の変化を感じ、帰宅後に過去の写真と見比べて驚きました。頂上台地を覆う苔はなく、荒れ地のように地面が露出し、笹枯れの跡や地被類が目立っています。前回、台地の中央を突っ切って歩いた道は苔に覆われ、ようやく歩ける程度の幅となり、その先はアセビに消えていました。苔の台地はここ数年に生まれ、今なお成長中だと言えます。
30数年前は隣の雨乞岳と同様、笹に覆われていた「イブネ」。ホームを襲った笹枯れ現象で今の姿になり、私たちに頂上台地を見せています。それはイブネだけに限らず、入道ヶ岳、竜ヶ岳、藤原岳、御池岳。今となっては当たり前の稜線も身の丈を超える笹に覆われていました。20年以上前に藤原岳に登った時は、小屋から展望丘まで続く笹ブッシュに何度も顔を打たれたことです。(笑)
そして今回、アセビから顔を出す笹を多く見ると、やがて、過去の姿に戻るのかも知れません。未来を見ることは出来ませんが、過去を知り、現在のイブネや稜線を歩けることは、貴重な出逢いだと知ります。
所々にある笹枯れの名残地に幕営し、本日の予定は終了。今回もホーム主峰を眺める好適地。見渡す限りの頂上台地にテントは見当たらず、あとはホームの山々を見ながら過ごす時間。
夕方、雲に隠れたまま陽が沈み、四日市方面の街並みにぽつぽつと灯り見え始めます。気温は2℃ですが、鍋の準備をしていると、それほどの寒さは感じません。主峰、御在所岳の頭上高くにある月が宝石のように輝く木星と競演し、やがて地上の銀河の光芒が稜線を浮かび上がらせます。聞こえてくるのはテントを揺らす風。上弦の月が照らす頂上台地にて、ホームの山が守ってくれる秋の夜長のテントライフ。

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しばらく続く林道歩きで 準備運動
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今は千草(ちくさ)と書きます…千種街道
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先週より紅葉帯は下がったことでしょう
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紅葉の先にも「紅葉」
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ここは 街道随一の紅葉でした
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この橋に名前を付けるなら「もみじ橋」でしょう
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大シデ…枯れ木となっても その存在は大きい
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古木がこの街道を見守る…シデ並木
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水場手前のトラバース道は 落葉に注意…
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1本になっても その名を残します…杉峠
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先週はあの県境尾根から…
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比良山系に琵琶湖、近江富士滋賀県側の展望
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14時でも 長い影…「秋の日は釣瓶落とし
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ようやく イブネと向き合えました
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最も鈴鹿の槍らしい展望地…「鎌ヶ岳と鎌尾根」
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イブネワールドの予告編
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頂上台地「イブネ」の南玄関
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アセビから 笹が顔を出し始めてきました
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苔の海に浮かぶは 御在所岳と鎌ヶ岳
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苔の台地を見守るは ホームの薬師「雨乞岳」
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明日 初めて訪ねる「チョウシ」方面
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このアセビを 見届けたいと思う
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テントライフに欠かせない いつもの…
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春は 比良山系に陽が沈みました
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ほんのりと 山肌を染める 夕暮れ
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向こうから 眺められているような 気もします…
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静かに時間が流れた イブネワールド
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ここまで届きそうな 街の灯り

11月13日
午前2時。星空を確認しようとファスナーを下せば、霜になった結露が落ち、首をすくめます。散りばめられた星空は、満天に輝くとは言えず、街の灯りが撮影を遮ります。
午前5時20分。まだ、夜明けには早く。午前5時45分、活動開始。
頂上台地は凍てつき、白い衣を纏っているよう…。この冷たい空気を久しぶりに身体へ取り込み、ホームの朝と同化します。次第に明けてくる東の空。暗闇が燃えつくされるグラデーション。
主稜線の向こうから上る太陽を、少しでも早く拝むため、イブネ北端まで移動すると、何と、1張りのテント。まだ活動されていないようなので、静かに御来光の時を待ちます。
夜明けを知らせる紅帯が両手を伸ばし、浮かび上がる峰々は南アルプス。その右側を追いかければ、真っ直ぐな頂上と両側に広がる裾野。ほんの一部しか見えていなくとも、その存在が「富士山」であることを示していました。
御在所岳の中道ルートにある富士見岩。イブネからも見えるだろうと思っても、見えるかどうかは運次第。
太陽が上がれば、それらは暁光とともに消え、イブネワールドが目覚め始めます。一期一会の言葉どおり、時と共に変化する世界。もう戻ることのない今を、少しでも多く感じようとしますが、気持ちが浮つきがちです。
雲ひとつなかった空は、朝食を終える頃には太陽が隠れるほどの雲。そんな中、クラシ、チョウシ、熊ノ戸平に向けて、朝の散歩。
週末とは言え、まだ、登山者は着きません。正に、テント泊した者だけが過ごせる時間。イブネ北端からクラシに続く冬枯れの林へ。ここもまた、美しい変化を遂げている場所。シンボルツリーは今も健在で、その先に見える苔の道は、ホームで最も美しいと思う道。
今日はクラシの標識まで向かいました。特に展望がよい訳ではありませんが、崖とも言えるその切れ落ちた稜線は、頂上台地の生い立ちを物語っているように思えます。
シンボルツリーまで戻り、初めて訪ねるチョウシを目指します。地形図ではこの辺りに登山道はありません。とは言え、目的地が見えていることと踏み跡があるため、迷うことはないでしょう。ただし、チョウシがどこにあるかを知っていることが前提です…。
次の目的地は「熊ノ戸平」。滋賀県側での「イブネ」の呼び方であると、何かで読みました。ここは別名「イブネのヘソ」。チョウシとイブネに囲まれた小さなピーク。そのピーク標識を探すのも一興ですが、そこに向かう時に横切る頂上清流や日本庭園の中を歩くように大小の石が配置された場所はイブネと異なる趣。
今回の散歩で新たに感じた進化するイブネの多様性と美しさ。次回までの変化が楽しみです。そして、これからの景色は訪ねる登山者以上に、この自然の成長に委ねられていることでしょう。
テントに戻る頃には登山者を見かけるようになり、その数は増えていきます。時間的に滋賀県側からの入山者と思われ、駐車地の混雑も予測されます。
何組かのグループが行き来する中、撤収を終え、20時間余り過ごしたイブネともお別れです。ホームであること、散策範囲が限られていること、平日だったこと。時間を大切に過ごせたテントライフでした。
大勢の人が寛ぐ頂上台地は、肩を並べた御在所岳と鎌ヶ岳のツートップを唯一眺められ、鈴鹿奥座敷と呼ぶに相応しい場所。
真正面に雨乞岳を望みながら下るイブネ坂。苔の道がどんどんなくなっていくのは、イブネワールドが遠のいていく証です。今日も佐目峠から上り返した杉峠ノ頭で昼食。陽射しが背中を暖め、冬枯れの林は休息の好適地。樹間に見えるイブネはもう遠い世界になりました。杉峠から再び旧千種街道を下れば、昨日とは違う景色が目を楽しませ、落ち葉を踏む音がやがて乾いていく駐車地へ戻りました。
下山後は、滋賀県の名店で秋を感じるいつもの…

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朝ぼらけに 高さや場所は関係ありません
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街の灯りが朝陽に変わります…木曽三川
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南アルプスから追いかけて…富士山
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山の端が 黄金色に染まっていきました…イブネ北端
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夜明けを迎える準備は 整いました
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イブネに届く 一日のはじまり
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さて 朝のお散歩に出かけましょう
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8年半前のイブネ…左の黒っぽい筋が 現在の道
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イブネ北端からクラシへは 一旦 下ります
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4年半前…林の手前の苔はまだまだ成長過程
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僕にとって 自然の曲線美は イブネの代名詞
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頂上台地を振り返ります
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唯一無二の世界が イブネワールド
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関西の富士山も素敵です…三上山(近江富士
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チョウシへの道…並木が特徴
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頂上清流は佐目子谷へ…熊ノ戸
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石、苔、アセビ…自然が生む日本庭園…熊ノ戸平
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クラシのシンボルツリーは 人間味溢れる美しさ
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鹿の苔道と名付けました
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まるでここは「苔の惑星」
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熊ノ戸平からイブネへは 苔光る道
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遠くに近江平野を従えて…イブネから熊ノ戸平
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自然区画の幕営適地
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鎌ヶ岳の先には 伊勢国の海
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また 次の機会まで…正面は 雨乞岳
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イブネ坂を振り返ります
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ここから見る鎌尾根が 最も美しい
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往き帰り 案内板に 足が止まります
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午後の陽射しが 染める道
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余韻を楽しむ時間だった いつもの…