Satの 山と一期一会

春夏秋冬。山との出逢いはいつも一度限り。

Suldenで過ごした 5日間

6月15日~19日 Sulden, Autonomous Province of Bolzano,Italien:Düsseldorfer Hütte
ようやく開いた小屋を目指して、まずは麓のホテルへと向かいます。

6月15日
ドイツに来たら、必ず行こうと誘われていたイタリア はSuldenにある小屋 Düsseldorfer Hütte(デュッセルドルファー ヒュッテ)。今年は雪が多く、小屋明けが1週間以上遅れると言うことで、小屋明けと同時に入山することになりました。
ただし、山麓の町へは友人宅から230km、4時間ほどかかるため、前泊とし、まずは麓の町を散策することにします。
ホテル用とヒュッテ用。溢れんばかりの荷物を詰め込んで出発。日本でも有名なノイシュヴァンシュタイン城を過ぎれば、オーストリアへ入国。欧州連合EU)加盟国のため、23年前にはあった国境のゲートは撤去されていました。やがて車窓に広がるアルプス。巨大な槍ヶ岳がそこかしこにあります(笑) 自宅を出発して3時間、イタリアへ入国。今回はモバイルWifiを契約しており、現在位置を確認できるため、旅の厚みが増します。それは、これまでに向かった観光地でも同様で、朝の散歩など、私達だけで行動しても迷うことはありません。
今日目指すSuldenは3,000m以上のアルプスに囲まれた標高1,850mほどの集落。本格的な山行からいくつもあるコースを楽しむ軽登山、そして、冬にはスキーを楽しめる白馬のような場所。
10時40分 ホテルに到着。これまでの旅先でもそうでしたが、部屋の準備が済んでいれば、荷物を置いてもよいことになっています。と言うことで、今回も荷物を置かせてもらい、身軽になって散策に出かけることとしました。
集落に沿って流れるTrafoier Bach(トラフォイアー川)と並行してハイキングコースがありました。この他にも、明日ゴンドラで向かうKanzelや反対側の山へ向かうルートもありました。
黄色い花が一面に咲く一本道。その向こう、針葉樹の山を超えて顔を覗かせる岩峰。そして、その山々の中腹より上は雪に覆われ、その一部は氷河であることを、友人の説明で知りました。
Trafoier Bachを渡る木橋。Schrötterhorn(シュレッテルホルン)3,388m の白き巨体が奥に横たわり、その前衛峰にはゴンドラの駅が見えています。川の色は日本では見かけない青みがかった灰色。アルプスの鉱物が混じっているのでしょうか。道端には、チョウノスケソウやワスレナグサとよく似た花からクレマチス・アルピナ、セイヨウキンバイソウなどの見かけない花。そして、アルプス三大名花のひとつと言われるアルペンローゼが咲いていました。標高が1,800mを超えているとは言え、これほどまでに花が咲いているのは、やはり気候が適していることなのでしょうか。
森の散歩道から望む小川、お花畑、集落、森、アルプス …。美しい光景が続きます。所々、この辺りに生息している動物か、木彫りの像が設置され、説明文も立てられていました。また、適当な間隔でベンチも設置され、ゆっくりとこの自然を楽しむ環境がここにはあります。
1時間半ほど歩いて集落へ。続いて、小さな教会(2ヶ所)を見学し、その教会とアルプスを見ながらテラス席でランチタイム。「ここで過ごすのも有り」と思わせる時間でした。
その後は集落を散策し、途中で明日泊まる小屋の奥さんと出逢います。これも何かの縁なのでしょう。その後、友人とは別れて教会を背景にした公園へ向かいます。Trafoier Bachの灰色とは違い、エメラルドグリーンの水面をたたえた小さな池にはアルプスの稜線が映り込み、教会とともに眺めれば、一枚の水彩画が完成されます。
夕方、友人の車でドライブに出かけ、今見ているアルプスの反対側へと向かいました。夕食時間の都合上、標高2,200m付近で戻りましたが、そのつづら折りの山岳ドライブウェイは圧倒的な迫力で、車窓一杯に広がるアルプスの岩肌は、気軽にアルプスと呼べない、寄り付きがたい存在であると感じました。
時間は戻って…散策だったけど、ランチの後にはいつもの…(笑)


その美しさは 遠くからでも… ノイシュバンシュタイン城

次々と車窓を過ぎていく アルプスの峰々

標高差1,500mは 上高地から見る穂高連峰と同じ

雪渓にはない光景…氷河の断面

自然と笑みがこぼれる景色

斜面によって 山の表情が 変化します

日本で見かけるには迷鳥のようですね…ウタツグミ

濁っているのではない 不思議な流れ

チングルマとチョウノスケソウのハイブリッド(笑)

行き交う人がほぼ居ないのは 日本と違うところ

花期は少し過ぎたかも…Alpenrose(アルペンローゼ)

Vorderes Schöneck(ヴォーダーレス・シェーネック)2,908m と Hinteres Schöneck(ヒンテレス・シェーネック) 3,128m

Plattenspitze(プラッテンシュピッツェ)3,422m と Hinterer Pederspitz(ヒンテラー・ペーダーシュピッツ)3,313m

樹間から見る景色に アルプスを実感

フウロソウの仲間でしょうか…?

黄色の雪洞が揺れています…トロリウス エウロパエウス

この青空に感謝

明日からお世話になる Düsseldorfer Hütte 2,721m

オダマキのように俯き加減で咲いていました…クレマチス・アルピナ ?

明日利用するゴンドラの終着駅が見えています

Church of Sulden … テラス席からの1枚

Suldenの集落を散策しても 花とアルプス

美しい光景が ここでは 日常風景

夕方のドライブ… Vordere Madatschspitze(フォルデレ・マダッチシュピッツェ)3,191m

午後8時50分… ホテルのバルコニーから

Erdbeer-Buttermilch イチゴとバターミルクのケーキをホイップ添えで いつもの…

6月16日
朝6時。バルコニーに立てば朝陽を受けて白く輝くアルプスが目に留まります。朝食までの時間、近くを散歩することにしました。昨日の青空とは違い、雲が低く垂れこめ、稜線を隠している山もあります。ただ、今日は小屋への移動日。明日、明後日が晴れればそれでOKと言う、少し余裕の気分です。
9時20分 今日から運転を始めたゴンドラに乗車。乗車時間は10分ほど。2,350m KANZELを目指して、450mを一気に稼ぎます。友人曰く、小屋へはここから森の中を沢沿いに歩く美しい道があるそうです。そして、この道が本当にお薦めだと言います。とは言っても、今日はゴンドラに乗車(笑)。昨日歩いた集落がぐんぐんと小さくなっていきます。そしてその反対に、見えていなかったアルプスの峰々は大きく、屏風のように立ちはだかります。Suldenの集落を境にして聳えるアルプスは、Ortler 3,905m、Monte Zebrù 3,735m、Königspitze 3,851m。… 勝手にOrtler三山と命名
9時45分 Düsseldorfer Hütteに向けて出発。丁度、乗鞍岳の畳平から肩の小屋に向かう道のようです。ただ、決定的に違うのは周囲の景色と眼下に広がるSuldenの集落と森。そしてもうひとつが高山植物。同じような感じの花は咲いていますが、個体としては全くの別物。一部、崩落した跡なのか、大きな岩を乗り越えるような箇所もありましたが、全体的には平坦な軽トラックが走れる幅の道を進みます。
歩き始めて約1時間。前方を、ずんぐりとした胴体を揺らしながら走り去る動物がいました。それが、事前に友人から聞いていたマーモットであることは、すぐに気付き、前を歩くバディに伝えましたが、岩穴に隠れてしまいました。ところが、ビギナーズラックか、岩穴から顔を覗かせ、その姿を私達に見せてくれました。TVなどで紹介される立ち姿までは無理でしたが、日本で見ることの出来ない動物だけに、幸先のいい出来事です。
小川に架かる橋のところで休憩。ここが麓からの道との合流点。水の色は集落と違い透明でした。歩き始めに見えていた青空は、雲が垂れ込め、Ortler三山の稜線も隠れています。しかし、こちら側のMadritschspitze 3,265mやHintere Schöntaufspitze 3,325m、Vertainspitze 3,545mはその岩稜線を私達に見せています。また、小屋も見えていますが、標高差約320m、まだまだ長いようです。ここからの道は、懐深く開かれた谷を、折り返しながら高度を上げていきます。そして、近付くにつれて姿を隠していた小屋が現れれば、最後の一本道。KANZELを出て2時間30分、標高2,721m Düsseldorfer Hütteに到着です。
小屋の周りは人も居らず静かでしたが、丁度、お昼時と言うこともあって、小屋の中は食事をする登山者で賑わっていました。まずは、チェックイン。顔馴染の5代目と共に久しぶりの再会を喜んでいた友人が全てをやってくれます。今日は今のところ私達1組だけ。部屋も4人部屋をあてがわれ、広々と使えます。また、心配されたコンセントも室内にあり、バッテリー充電の課題も解消です。
食事をした後は夕方まで休憩。その後、近くを散歩すると言うことで、結果的に、男性だけで出発。そして、ここで言葉の壁による行き違い。近くだと思った散歩は、往復1時間15分の半分をツボ足で、時には太もも近くまで嵌る山行となり、靴もパンツもビショビショの状態で帰ってくることになります。早速、冷えた身体を温かい飲み物で暖め、そのまま夕食へ。ここの小屋は、ボリュームたっぷりと言うことで、前菜+メイン+デザートで申し込んでいます。ベーコンの入った豆のスープ、豚肉のカツレツ、Quarkのクレープ。下界で食べるのと遜色がありません。
夕食を食べ終えた20時30分過ぎ、夕陽を照らして薄く染まる山肌と雲。明日は氷河を見に行く山行。この山域でピークを目指すと言うことは、岩登りをすることであり、とても私達の技術では辿り着けません。ただ歩くだけでも、十分にアルプスの空気を感じることは出来るでしょう。
ランチ後に皆でシェアしたいつものに加えて、夕食後にダブルいつもの…(笑)


Suldenで迎える初めての朝

MONTANA … 食事の美味しいホテルでした

ゴンドラは どこで乗っても ワクワクします

KANZEL からのパノラマ… 中央が Ortler(オルトラー)3,905m

区別しにくいですが No.12からNo.5 が 本日のルート

建物の向こうには Madritschspitze (マドリッチュシュピッツェ)3,265m(右) と Hintere Schöntaufspitze(ヒンテレシェーンタウフシュピッツェ)3,325m(左)

少しの時間でも 思い出がいっぱいの町

豆粒のような 目的地 Düsseldorfer Hütte

しばらくは こんな道が続きます

イワカガミ系だと思ったら イワカガミダマシ属なんだ…ソルダネラ・プシラ

こうした谷を 幾度も 曲がって行きます

これは見た通り サクラソウ属でした…プリムラ・ファリノサ

移り変わる その時間が 愛おしい

初 Marmota … 岩穴から 顔を覗かせてくれました(トリミング処理)

プルサティラ・アピフォリア…キンポウゲ科オキナグサ属

青空が見えない力を与えてくれます

振り返れば トラバース道が 斜面を横切っていました

昼食…小屋の名前が付いた パスタは チーズがたっぷり

パンケーキの一種 Kaiserschmarrn(カイザーシュマーレン)が 一品目のいつもの…

部屋は2段ベットが2つ置かれた 4人部屋

Tシャツのデザインにもなった Vertainspitze(ヴェルテンシュピッツェ)3,545m

さて 男性2人で 夕方のお散歩

ここまで来る つもりではなかったのですが…^^;

ましてや ツボ足で トレースを作るなんて… (泣)

帰り道…この後 霰混じりの雨と なります

夕食は 消費以上のカロリーでした

Quark…ヨーグルトのような フレッシュチーズ(日本では販売していません)で W いつもの達成 …

6月17日 
6時起床。すでに陽は昇っており、朝陽がOrtlerを照らしていました。Ortlerを正面とし、小屋の左側に聳えるVertainspitzeはまだ目覚めてはいませんが、その頭上に浮かぶ雲は、しっかりと朝の光を受け止めていました。やがてその力は高まり、頂や氷河や岩を浮き上がらせます。飽きることない時間は、場所を選びません。
8時から朝食。これまでに泊まったホテルの朝食は、数種類のパン、チーズ、ハム。そして、ジャムやヨーグルトに果物。これらをベースにして+αとなるわけですが、さすがに山小屋では基本ベースのみでした。今日の山行は氷河を見に行くことにあり、あわよくば、氷河を歩くことになっていますが、昨日の夕方の散歩からして、どれだけ近付けるかは雪面の状況に依るでしょう。いずれにしても、出発したら最後、戻ってくるまでは行動食のみのため、しっかりと朝食を摂ります。
9時15分小屋を出発。正面に見えるOrtler三山には、雲がたなびき、稜線は姿を隠しています。ただ、目指す方向の稜線ははっきと見え、陽射しもたっぷりとありました。今日はゲーターを履き、足元をしっかりとガードして、踏み抜きに対応しますが、まだ気温が上がっていないことと、昨日トレースを作っておいたことで、順調に歩みを進めます。最初の踏み抜き地帯を過ぎ、岩が露出している登りに差し掛かります。前方にはCroda di Cengels 3,375m から続く黒々とした岩峰が私達を見下ろすかの如く立ち上がり、ただ立ち尽くすことしか出来ないほど、人間のちっぽけさを感じます。
100mほど標高を上げたところが、部屋の窓から見えていた小高い丘。新しい景色が広がる場所。地形図で見ると、この辺りは広大な平地になっており、日本で言うところの「〇〇平」か「〇〇ヶ原」。今は大半を雪に覆われていますが、大きな岩が点在しています。
左側に切り立つ断崖絶壁の岩峰Croda di Cengels の稜線。右側の雪原に向こうには Vertainspitze から続く Hohe Angelusspitze 3,521m、Hochofenwand 3,431m、Kleine Angelus Spitze 3,318m。標高差としては500~700mですが、急峻な岩肌はそれ以上の高さを感じさせます。昨日の折り返し地点だったケルンを通過すると、しばらくは直線的な窪地を進みます。今日は雪面も落ち着き、嵌ることもありません。気温はさほどではないものの、照り返しの陽射しがきつく、袖を捲って体温調節をします。20分ほど進むと前方に岩が露出した斜面が見え、どうやら窪地の終了点のようです。最初は雪を避けて登ろうとしましたが、落石の危険性があるため、すぐに引き返し、これまで通りに雪面を登ります。途中、氷や岩に雪が付いている箇所もあり、スリップ→転倒→滑落 とならないよう注意をします。
登り切れば、今回2度目の新たな世界。まだ半分以上雪を被った翡翠色の池。その池を巻くようにして支尾根が伸び、Kleine Angelus Spitzeへと続きます。そして、新たに見えたのがSchafbergspitze 3,306mとその間に流れる氷河。休憩後、もう少し氷河に近付きます。尾根部分は岩が露出して歩きやすかったものの、最後の数10mは再び、雪に覆われていました。そして、この頃から、Ortler三山の雲も取れ、素晴らしい光景に新たな花を添えてくれます。
小屋を出発して2時間40分、3,300~500mのアルプスに囲まれた3,000m付近を本日のピークとします。ここから見る氷河は雪渓と変わらず、遠望でも、その断面を見る方が迫力を感じました。
帰りはOrtler三山を見ながらの山行。ただし、気温の上昇と共に雪が緩み、嵌る回数が増えたため、男性2人が先行して踏み固めます。何度も太もも近くまで埋まり、時には、抜け出すのに時間もかかりましたが、午後2時前、無事、小屋に到着。靴やパンツは再び、乾燥室送りとなりました(笑)
往復5時間程度の山行でしたが、すれ違ったのは1組2名。小屋は食事をする方で賑わっていましたから、この時期、ほとんどの方がこの小屋を目的として登られているようです。我々もスープパスタとアップルパイでエネルギーを補給し、休憩タイム。本日の夕食は、前菜が野菜たっぷりのバジル風味パスタ、メインが牛肉煮込み、デザートは洋酒の効いたチェリーの上にチョコが付いたアイスクリーム。と言うことで、今日もいつものは、ダブルでした(笑)


自分達の部屋は 2階 右端の窓

簡素でも パンのボリュームは たっぷりあります

Hohe Angelusspitze(ホーエ アンゲルシュピッツェ)3,521m

昨日のトレースを辿って…

アルプス三大名花の1つ チャボリンドウ かどうかは?

パノラマモードが大活躍…Vertainspitze から Ortler

昨日 トレースを作って 正解だったと感じながら 進みます

見たことのない世界に アルプスを実感

昨日の折り返し地点…ここからは 新しい世界

雪の壁と岩の壁 高低差は違いますが…

Croda di Cengels(クローダ ディ チェングレス)は 穂高を思い出させました

今 歩いてきた道を 振り返ります

次なる ステージへ 小さな高みを目指します

新たな景色は 前に進む 気持ちを高めました

友人曰く「まずは あのピークを 目指します」

世界を切り取れば そこには アルピニストの姿 (笑)

雪がなければ 何てことのない 道なんですが…

ヒュッテからは見えない奥深さ…Vertainspitze

今来た道と Ortler三山

ドイツ語で 氷河はGletscher(グレッチャー)と言います

ピークのつもりで ハイポーズ (^^)

素晴らしき景色を見ることが出来て 感謝!

往路とは違う復路の景色 この感覚に国境はありません

塩味とスープが 身体に沁みました…Nudelsuppe mit Wurst 7.70€

お昼のいつものは… Hausgemachter Apfelstredel(自家製 アプフェルシュトゥルーデル)

これで主食になる前菜です

牛肉の煮込み マッシュポテトと野菜添え

染まるかと期待した夕暮れの アルプス

ちょっと大人の雰囲気で 夜のいつもの…(笑)

6月18日
深夜ベットを抜けだして、窓から外を見上げると、星の瞬きが見えました。今回のもうひとつの目的、星空と小屋の撮影。外に出てみると、なんと外灯が点いており、まずは小屋から遠ざかります。そして、見上げたアルプスの星空。しかし、意外にも宇宙を感じるような一体感がありません。空が明るいのです…と言っても、星空撮影での話ですが…。時刻は午前1時前。しかし、北緯45°を超えるこの辺りは自分の住む町より10°以上緯度が高いため、今の時期、日没は遅く、日の出は早い。それだけではないのでしょうが、とにかく、天の川でさえはっきりとしない空でした。とは言え、何度か星空軌跡モードで撮影し、その待つ時間は貴重な思い出として過ごしていました。撮影途中、Ortler三山でヘッドライトの光芒を見かけます。ここにも、国境はないようでした。1時間近く撮影していると目も慣れてくるもので、天の川の中心部を撮影出来、予定終了。次は夜明け前に起きて、Ortler三山のタイムラプス撮影。
と言うことで、寝不足気味のSulden4日目は、雪の上ではないルートを歩くことになりました。そのルートは、ゴンドラの終着駅KANZELまで降り、その先にある谷合の道を歩く計画です。
9時20分 小屋から表に出ると、これまでで一番の青空。雲ひとつないOrtler三山です。若い時からこの小屋を訪ねている彼曰く、この空はワンシーズン中に限られたものだそうです。
さて、まずは2日前に登ってきた道を下ります。日本で言うと、岳沢ヒュッテに泊まって、大正池か明神池を見に行くみたいなものですね。当然、ヒュッテ周辺のルートも検討してくれたみたいですが、やはり、ツボ足問題を避けて通ることが出来なかったようです。それでも、初日とは違う空、軽い荷物、下り。それらの要素が足取りを軽くさせます。今日は日曜日と言うこともあって、多くの登山者とすれ違い、その度に「Hello」か「Morgen」。
曇っていた初日、閉じていたプルサティラ・アピフォリアは、陽を浴びるように上向きで咲いていました。この他にも、アルプスの強い陽射しを受けた花々は、短い今を精一杯生きているように思います。人も花も身体いっぱいに太陽を受け止めていました。
写真を撮るなどして、遅れ気味の私達。先行していた友人夫婦は一昨日と同じ場所で休憩をし、待ってくれています。その後も、慌てることなく、KANZELへの長いトラバース道を進み、11時20分到着。昨日から駅前のカフェは営業をしており、随分と賑やかになっていました。そのテラスで一息ついてから、出発。目的地は特に定めず、1時間程度歩いて適当な場所で折り返すといったもの。木柵を過ぎると、道は日本的な山道へとなり、緩やかな緑の斜面をアルプスに向かって歩き始めます。右側にはOrtler三山とその前衛峰が集落のある谷間から、一気に駆け上がっています。その標高差は最大で2,000m。この位置からだと下に450m、上に1,550m。そのスケールは視界に収まりきれません。更に、それはパノラマ的に横へも広がります。
「これが世界なんだなぁ」と実感しました。
足元に注意をしながらトラバース道を進むと、前方には新たな景色が広がり始め、やがて、Plattenspitze 3,422m、Hinterer Pederspitz 3,313m から Hintere Schöntaufspitze 3,325m へと続く岩稜パノラマとなりました。そこには、雪解け水が滝から川となって麓へと流れる様子やその水を受けて広がる森。また、足元では数多くの高山植物が小さな体を揺らしています。このままどこまでも歩いて行けそうなので、小川の畔にあった標識を折り返し地点としました。
「登らない山歩き」「目指さない山登り」そんな言葉を思い浮かべながら、KANZELへと戻ります。帰りは別のルートを利用しました。KANZELまで高度感と展望のトラバース道が続き、距離も時間も短縮されました。
テラスで軽い昼食をとり、小屋へ戻ります。朝よりは雲が湧いているものの、目安となるOrtler三山の稜線は隠れていません。ただ、天中から降り注ぐ陽射しはきつく、自然と口数が減っていきました。16時小屋に到着。そのまま、いつもの…(笑) そして、夕食のデザートを見た休憩中の登山者が、私達にもと追加注文した 本日2品目の いつもの…。


星降る Düsseldorfer Hütte は 撮りたかった1枚

緯度=北極星の高度…日本と比べると随分高い

天の川銀河は 逆に低くなります

安全登山を 願います

この景色も 落ち着いてきました

洗面所の窓は 時間と共に変化する 自然の額縁

最高の天気の下 出発です

この天気には 感謝しかないでしょう

昨日とは また違う姿…Hohe AngelusSpitze

友人夫妻は 過去に登っています… Ortler 3,905m

この山歩きで 十分満足な 私…

池フェチには たまらない光景です(笑)

この川沿いに 麓の集落へ向かうのは 次の機会?

アルプスとともに KANZELへ

標高差 2,000m その光景は 圧倒的な存在感

正に 氷の河

オキナグサ属の プルサチラ・ウェルナリス ? 

Ortler三山に Colaで乾杯

ここから先は 新しい世界

視界に広がる森が 印象的だった道

ジンチョウゲ属 ダフネ・ストリアタ 

振り返れば ここでも Ortler三山

Plattenspitze(プラッテンシュピッツェ)3,422m から続く岩稜を 手軽に 味わえる静かな ルート

何だろう この気持ちの良い 山散歩は…

本日の折り返し地点 … これを 新しい山のスタイルにしたい

でも この景色は 日本では 無理か…

ベルリンで買ったというTシャツが面白かったので ご一緒に…

ボリュームと栄養のあるスープは 山のお昼にピッタリです

小屋への帰り道 いつもの休憩場所で 友人を待ちます

お花畑の向こうに川 そして 美しい景色 … 三途の川とはこんな世界か

ラズベリーの酸味が 美味しい Linzer Torte(リンツァートルテ)

ジビエのお団子で まずは ほっこり

ヘレ肉は 手を止めさせません

今でも 隣席の登山者の表情を思い出す(笑) いつもの…

6月19日  
小屋で過ごす3度目の朝。今日も青空が出迎えてくれます。何度もこの地域を訪れている友人曰く、これほどの好天が続くのは珍しいそうです。過去には2週間滞在して、数日しか晴れなかった年もあるとのこと。本当に恵まれていたとしか言いようがありません。朝食で提供されるハムは毎日変わり、今日は赤みがかったベーコンのような見た目をした生ハムで、弾力のある味わい深いものでした。それも今日で終わり…と思っていたら、帰り道、お肉屋さんで買っており(スペック:チロル地方で作られるもので、豚のもも肉を塩漬けした後に燻製し、さらに熟成させて作る)、自宅の朝食時に楽しめました。
Ortlerの頂付近は雲に隠れているものの、その殆どは青空が広がる下、4日間過ごした小屋を後にします。帰り際、笑顔の素敵なスタッフ達へ「とても日本では過ごすことの出来なかった時間でした」と、友達から(笑)感謝の気持ちを伝えてもらいました。
小屋を出てすぐ、遥か下方を足早に去っていく動物を発見。出発前、小屋近くで友人が見たマーモットのようです。何をそんなに慌てているのか、あっという間に、斜面の向こう側へと消えていきました。
ゴンドラは12時20分~13時30分まで、昼休憩で運行しません。それまでには着かねばなりませんが、9時に出発をしているため、時間はたっぷりとあります。この広大な世界に、急ぐという言葉は勿体無いです。昨日、厳しい午後の陽射しを受けながら登った道も、今となっては思い出。もうしばらくは、もしかしたら2度と見ることがない景色を記憶に刻みながら下山します。小屋の5代目曰く、この小屋で日本人が来たのは、友達の奥さん以外初めてだと。そして友人は、週末の2日間は人がたくさん来ていたと話しますが、上高地八ヶ岳と比べれば、静かな山行を楽しめます。私達にとってこんなにも素晴らしい景色は、この辺りでは日常風景であり、観光地として集中することがないのでしょう。
どこからともなくカウベルの乾いた音が聞こえてきます。目を凝らせば、いつも休憩する橋の近くに牛の群れが散歩しています。登山道のすぐ脇、時には登山道を歩く牛達。横を通り過ぎても、「我関せず」と言ったような表情で、草をはんでいました。
今日もここで休憩。心地良い陽射しと石の冷たさ、川のせせらぎ、草の匂い、お花畑にアルプスの峰々。つい長居をしたくなる場所。ここを名付けるとしたら「天国に近い休憩所」。ただし、生きている者としては現実に戻らねばならず、重い腰をそろそろと上げます。
雲が沸き立つOrtler三山。夏山の景色。振り返れば、Hinteres SchöneckからVorderes Schöneckへと続く、巨大な岩稜線。その稜線を歩くことは出来ませんが、今なら、何となく想像できる自分が居ました。また、友人お薦めの沢沿いの道を追いかけ、森から集落へと抜けていきます … すべて妄想だけですが…。前方に Hintere Schöntaufspitze、Madritschspitzeが見えてくるとトラバース道も終わりが近付いてきます。Ortler三山を正面にして歩いてきた道はHintere SchöntaufspitzeからKönigspitzeへと続く雪のグラデーション。友人曰く「以前と比べれば、随分と氷河は小さくなった」は、この地域だけではない、現実のお話。
KANZELを目前にして、Ortleはその頂を現わし、私達にお別れを告げてくれたようです。10時45分 KANZELに到着。3日前、荷物以上に詰め込んだ期待は、すべてが良い思い出となり、今は荷物の重さだけを感じています。前回、ドイツを訪ねた際に歩いた南チロルのドロミテ山塊。その記憶は定かでなくなってきています。今回、カメラ、ネット等環境の変化に伴って得た情報は、較べものにならないほど膨大なものになりました。記憶という変化するものから情報という固定のものへとなったわけです。そして今、その情報をもとにして、このブログを作成し、次に残そうとしています。
明日(6/20)からはBerlin(ベルリン)へ3泊4日の旅行のため、毎食後に食べるチョコレートがいつもの…。


今朝も レストランの窓から いつもの景色

レストラン…扉の向こうは フロントとテーブル席

この景色は ここでお別れです

マーモット…結構 駆け足は 早い方です(トリミング処理)

KANZELへの道が 続いています

お世話になった小屋が 遠くになる寂しさ

名前は特定できませんが リンドウの仲間ですね

谷間を流れる小川が 良いんです

Königspitze(ケーニヒシュピッツェ)…日本だと 〇〇槍と付けるんだろうなぁ

牛も 橋を渡るようです…ブラウンスイス種

牛飼いの姿は ありませんでした

路上の牛糞には注意が必要です(笑)

4度目の橋も 今回で渡り納め

中央の大きな石が お決まりの休憩場所

カルタ・パルストゥリス(キンポウゲ科 リュウキンカ属) かな?

頼りになる ドイツの友人

振り返って 岩稜線…初日の驚きは落ち着きました

前方のOrtler三山…見飽きることはありません

今日は これから開くのでしょう…プルサティラ・アピフォリア

氷河の流れは 悠久の流れ

こんな道が 日本あればとは 無いものねだり

これに乘れば お終いです

山麓からHintere Schöntaufspitze を見上げれば すでに 遥かな頂

帰り道 Gomagoiの集落で買った Speck

車窓から スイスの山 Piz Mundin 3,146m

ドイツ最高峰 Zugspitze を オーストリア側から

14時16分 ドイツに入国